エリート上司と偽りの恋
入社して七年、こんな失敗は初めてだった。いつもやることは同じ、慣れているはずなのに。

「これ、本当に加藤さんが入力したの?」

もう一度伝票を見ると、確かに担当の名前は加藤になっている。
だけど、二日前の記憶を辿った私は気がついた。

ここの代理店の伝票を処理したのは……桐原さんだ。

でも……。


「はい、私の責任です。申し訳ありませんでした」


担当の名前を変更せずにそのまま処理したから、私の名前になっていたんだ。

システムを変更したばかりで、こういうトラブルも事前に予測していた。

新入社員の桐原さんを教育するのは私の役目なのに、チェックを怠った私の責任だ。


「まぁシステム変更上のトラブルだろうから、そんなに気にするな」

部長に優しい顔でそんなこと言われたら、泣きそうになる。


「いえ、気にしてもらわなきゃ困ります。代理店は我々にとって大事なお客様なんだ、通常の業務の合間に住所等が全て正しいのか新システムで確認して。今日中に」


一切感情を表に出さず淡々とそう言い放った主任に私は「はい」と返事をすることしかできない。


こんな時に限って、いつもより受注の数も経費処理も多い。合間を見て新システムのチェックもしていたけど、残業決定だ。


「加藤さん……本当にすいませんでした」

こんなふうに真剣に頭を下げる桐原さんを見たのは初めてだった。

「もういいから、ちゃんと確認しなかった私の責任だし」

桐原さんに一緒に残業をすると言われたけど、桐原さんがチェックしたところをまた私がチェックしたんじゃ二度手間になると思った私は、その申し出を断った。

けれど桐原さんが気にし過ぎないよう、もうひとつお願いされたことについては快く受け入れた。


「明日、お昼おごらせてください」

「うん分かった、例のオムライスのお店行こ。お疲れさま」



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