エリート上司と偽りの恋
時刻はもうすぐ二十時を指そうとしている。営業部に残っているのは私と新海君だけだった。


「どうだ?」

そう言ってコーヒーを置いてくれた新海君。

「ありがと、あと少しで終わる。新海くんは?」

「俺はもう終わったけど……」

「そっか、お疲れさま」

「俺も手伝うか……って、断るに決まってるよな」

「分かってるなら聞かないで。ほら、仕事してないのに残業はよくないよ」

新海君の性格はよく分かってるから、私を心配してくれてるのも知ってる。でも甘えることはしたくない。


「分かったよ。じゃーまた来週な。お疲れ」

帰っていく新海君を見届けたあと、再びパソコンに向かった私。これで正真正銘ひとりきりになった。

営業部にひとりなんて経験、初めてだった。今まで残業なんてする必要がなかったから。


静かな社内でカチカチとマウスを鳴らしながらチェックを続けること三十分。二十時半に全てのチェックが終了した。


「終わった~」

ひとりなのをいいことに、少し大きめな声でそう言いながら思いきり伸びをした。


「お疲れさま」


「え?」

驚いて声がする方に視線を向けると、そこには主任が立っていた。

「しゅ、主任!?帰ったんじゃないんですか?」

ホワイトボードを確認すると、確かに直帰と書いてある。


「帰ろうと思ったんだけど、やっぱり気になるから。ひとりでよくがんばったな」


ずるいよ。

昼間はあんなに厳しい顔してたくせに……、今はそんなに優しい目をして私を見るなんて……。



「私の責任ですから」

冷静を装って答えた私に、主任は柔らかな笑顔を向けた。


「今日は送っていけないけど、平気?」

「子供じゃないんですから、平気です!」


会社を出ると、私とは反対方向に進んだ主任。

その背中を見つめている私の胸は、なぜだかとても……苦しかった。




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