エリート上司と偽りの恋
ーー

定時を一時間すぎたころ、会社を出た私はメイン通りの裏路地にある一軒の居酒屋に入っていった。


新海君は外出先から直接ここに来るって言ってたし、先に飲んでよう。

正直今日はあんまり飲みたい気分じゃなかった。というか、お酒が入ったら泣いてしまいそうだし、余計なことを口走らないか不安だからお酒はほどほどにしよう。



ジャスミン茶ハイをちびちび飲んでいると、二十分後に新海君がやってきた。

「悪い悪い、もうちょっと早く来られる予定だったんだけどさ」

すでにスーツのジャケットを手に持っている新海君は、早々にビールを注文して私の前に座った。


「相変わらず忙しいんだね。適当につまみ頼んどいたよ、っていうかなんで急に飲もうと思ったの?ストレスでも溜まってる?」

お互いのジョッキを軽くぶつけた後、新海君は無言でビールを一気に半分くらい飲んだ。


「かぁー、仕事終わりのビールはやっぱうまいな」

「あらら、新海君もオヤジになったねー」

「うるせーな。俺がオヤジってことは、加藤はオバサンだろ」

年々体力も落ちてるし、そりゃオバサンですよ。否定はしません。


「でさ、俺じゃなくてお前は最近どうなんだよ」

「どうって?まぁ特に最近はクレームもないし、いつも通り……」

「仕事じゃねーよ」

周りが騒がしいからか、新海君が身を乗り出して大きめの声で言うもんだから、私はたじろいでしまった。


「仕事、じゃなかったらなに?」

新海君はまた眉間にシワを寄せ、少し不満そうにため息をついた。


「最近お前暗すぎ、なんか悩みあんだろ?」

「え?」

暗い?私が?仕事中はいつのも通りだし、むしろ努めて明るくするようにしていたはず。


「今日だって、分かりやすく目真っ赤にしてただろ」

バレてた……。営業部に戻る前にちゃんと化粧直ししたはずなのに。


「別に……たいしたことじゃないよ」


またも不満気に沢庵をポリポリかじりながら、まるで取り調べをしている刑事のようにジーッと私の顔を見つめている。


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