エリート上司と偽りの恋
私が口を開くまで、こうやって待ってるつもりなのかな……。
かれこれ十五分、新海君はひと言も喋らずひたすらお酒とつまみを口に運んでいる。


十五分って思った以上に長いし、ふたりきりなら尚更そう感じてしまう。


「分かったよ……私の負け。話すから」


その瞬間、ようやく顔を上げ私に向かって笑顔を見せた。

もちろん主任のことは言えない、だけど私のコンプレックスについては新海君になら相談してもいいかなって、そう思った。


「私には、双子の姉がいるの……」


その言葉をきっかけに、今までためらっていたのが嘘のように次々と言葉が溢れ出す。

本当はこんなふうに、誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない……。

ずっと自分の中に溜めていた思い。結衣に対する嫉妬や劣等感を誰かに話すのは、初めてだった。


「大学生のときに結衣と一緒にアルバイトをしていた喫茶店では、お客さんが私の顔を見て一瞬笑顔になったと思ったら、その後すぐにみんなガッカリした表情をするの〝あぁ、今日は結衣ちゃんじゃないのか〟って。だから私は結衣と同じだった黒髪を、当時付き合ってた彼氏に振られた後、茶色に変えたの」


新海君は真剣な顔で私の話を黙って聞いてくれている。

「結衣の真似をしようと思ったこともある。だけどやっぱり無理で、私は私だった」


どんなに頑張ったって、主任が好きだった結衣に……私はなれない。



「……双子がどんなもんなのか、俺には分かんないけどさ」


何杯目か分からないけど、空になったジョッキをテーブルに置いて私を見つめた。


「加藤は加藤で、いいんじゃねーの?」


「……え?」


「そうやって自分の中で比べてばかりいるから、周りもそうなんだって思っちゃうんだよ。たとえ今ここにお姉さんがいたとしても、俺にとって加藤麻衣は意外に責任感が強い同期の加藤麻衣でしかないし、お姉さんと比べる理由もない」


新海君の言葉はすごくうれしい、でもそれは結衣を見ていないから言えるんだ。




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