エリート上司と偽りの恋
「でも……もし昔一目惚れした人に久しぶりに出会ってまた好きになったとして、それが実は双子で、しかも間違えて昔出会った人とは違う方に好きだと言ってしまったら?」


話してたら止まらなくなって、思わず具体的なことを聞いてしまった。


「その状況は複雑だしなんかよく分かんないけど、〝昔好きだった人〟よりも、〝今誰が好きなのか〟っていう方が俺は大事だと思うけど」


新海君の言葉が胸に突き刺さって、不覚にも泣いてしまいそうになった。

主任は間違いだと気づいたとき、結衣に会うことを選んだんだ。

今を一緒に過ごした私じゃなくて……。


「なぁ、加藤」

泣かないようにグッと唇を噛みしめて顔を上げた。

「なに?」

「俺、加藤のこと好きだよ」

「……ありがと、そう言ってもらえるとちょっとは元気でる」


「あのなー、分かってるか?俺の言う好きは同期としてじゃなくて、男としてお前が好きだって言ってんの」


「……は?」

新海君が、私を好き?


「マジで全然気づかなかったのかよ。俺、わりとお前に優しくしてたつもりだけど……」

だって新海君はみんなに優しくていい人だから、まさか私をそんなふうに思ってたなんて……。


「けどさ、加藤が俺を同期としてしか見てないってことも分かってるよ」

「新海君……」


話し声が入り乱れてうるさいはずの店内が少しだけ静かに感じた瞬間、新海君は今まで見たことないような、男の顔で私を見つめた。


「だけど俺なら、お前にそんな辛そうな顔はさせない」


落ち込んでるときには励ましてくれたり、何度も助けてもらった。
同期の新海君がいるだけで、心強いって思えるし、私のことを好きだと言ってくれたことも本当にうれしい。

新海君を好きになったら、きっと幸せになれる。

でも……。


「私……ごめん、新海君をそういうふうには思えない。好きだけど、それは同期として友達としてで、これからもそれは変わらないと思う」


< 55 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop