恋した彼は白金狼《プラチナウルフ》
たちまち先輩の顔から笑みが消えて、凄く真剣な顔をしたから、私はここぞとばかに捲し立てた。

「いやあ、なんと言うか、こんな私をデートに誘うなんて物好きな人もいるもんだなーとビックリするよね!だけどせっかくだからデートしてみて、彼を知ろうと思うの。う、うははははっ」

少し眼をあげて先輩を見ると、彼は眼を見開いて私を見ていた。

「マジかよ」

「うん、なんか、恥ずかしい。ふふふふっ」

すると先輩が、なぜかグッと眉を寄せて私から視線をそらした。

「……そうか。じゃあ、俺は少し出掛けてくる」

ギュウッと胸が苦しかったけど、私は唇を噛み締めてそれに耐えた。

……バカだな先輩ったら。

そんなわけないじゃん。

先輩以外の人が、眼にはいるわけないじゃん。

唇を噛み締めて壁の時計を見ると、私は大きく息を吸い込んだ。

美術教室まで、まだ時間がある。

私はホッと息をついてからスーツケースに手を伸ばした。
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