恋した彼は白金狼《プラチナウルフ》
痛いくらい、先輩が私を胸に抱いた。

至近距離で、先輩の瞳が私を見つめる。

「あ、あの」

「許して欲しいなら、この画を俺に渡せ」

……それって……それって、この画を手放せって事?

嫌だ、それはできない。

私は夢中で首を横に振った。

「手放すのは嫌です。この画は今まで描いた中で、私の人生の中で、一番大切な画です」

「じゃあなぜ今、処分すると言ったんだ」

一瞬、怖くて身体が震えた。

だってこんなことを言うと……先輩に気味悪がられるかも知れない。

でも、でも嘘はつきたくない。

私は観念してギュッと眼を閉じた。

「それは……先輩が今でも好きだからです。あの日、先輩の家を出た日、デートなんて言ったのは嘘です。あなたより好きな人なんてもう絶対に現れない。だから……先輩が嫌ならこの画は私の手で処分します。だけど、手放すのは絶対嫌です!」

言い終わると同時に、先輩が私の口を塞いだ。

私に……キスをして。

嘘。
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