常務の秘密が知りたくて…
「お前がそれを言うんだな」

 搾り出すような声に視線を向ければ常務が机に肘をついて項垂れていた。

「差し出がましいことを言いました、申し訳ありません」

 忘れてはいけない、こうして常務と一緒にいるのも仕事の一環でおまけに私は一介の秘書だというのに。常務は顔を上げるとグラスに残っていたワインを飲み干した。そしておもむろに視線を私の手に向ける。

「気になっていたんだが、その手はどうした?」

 話題を変えてくれたのは本当に有り難いが、まさかそこにもっていかれるとは思わず私は反射的に両手を引っ込めた。指摘された私の手は荒れ気味だった。

「すみません、お見苦しくて」

「そういうわけでもないが、見てて痛々しい」

「最近冷えますからね。洗い物とか」

 と、そこで私は口をつぐむ。あ、危ない。また余計なことを喋るところだった。常務はそれ以上、追及することもなく腕時計に視線を遣る。

「そろそろ出るか」

 あまり意識していなかったが食事も済んでしばらく経つし何より明日も仕事だ。異論は全くなくお店を出ることにした。

 店の中が暖かかった分だけ外の寒さが身に染みる。コートとマフラーだけでは追い付かない。早くタクシーを拾ったほうがよさそうだ。

「常務、今日はありがとうございました。とっても美味しかったです」

 お礼を告げて頭を下げる。相手も相手だし場所も場所だったので緊張しっぱなしだったが、それでも結果的に常務と仕事以外で話せたことはよかったと思う。
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