常務の秘密が知りたくて…
「絵里ちゃん、お帰りー。長丘なら急な会議があるってちょっと席外してったわ」

「そうでしたか」

 まさかの客人と二人の空間に私はどうすればいいのか迷った。普通に自分のデスクに戻って作業をしてもいいものか。

「ちょっと話でもせえへん?」

 そんな複雑な心境を読み取ったように坂本様に声をかけられる。

「いえ、しかし」

「ええやん。長丘が帰ってくるまでの間だけでも、ちょっと相手してや。主人がおらん間に客人をもてなすのも秘書の仕事やろ?」

 そんな風に言われると私は強く断ることが出来なかった。不思議なことに坂本様の人柄なのか強制されているわりには、あまり嫌な感じはしない。私は躊躇いながらも先程まで常務が座っていた席に腰を落とす。

「俺、生まれも育ちも関西なんやけど親の仕事の都合で転勤とかしてて方言ごちゃまぜだったりするけど気にせんとってな。あ、ちなみにあいつとは中学んときに知りおうたんよ」

 喋りだした坂本様の話から、あいつというのが常務のことだというのはすぐにわかった。

「最初は長丘のこと、なんやお高くとまってるなって印象やったんやけど話してみると頭はいいし意外と面白い奴でな」

「そうなんですか」

 適度に相槌を打ちながら、常務の学生時代の頃の話につい耳を傾けてしまう。

「ま、無愛想で冷めた感じなのは変わらずやけど。わりともてるくせにどれも遊びばっかりやし。勿体ないやろー。にしても驚いたわ、絵里ちゃんみたいな娘を秘書にするなんて」

「それは……上が決めたことでしょうし、常務も渋々かと」

 坂本様は眼鏡の奥の瞳を真ん丸くした。
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