常務の秘密が知りたくて…
 私はというと常務の顔も見られずにその場で立ち尽くした。今更ながらとんでもないことをしてしまった後悔が襲ってきて、申し訳なくなってくる。

「余計な真似をしてすみません」

 震える声で謝罪を口にしたが、常務からの返事は何もなかった。常務は無視していたのに、あんなわかりやすい挑発に乗って言い返してしまうなんて社会人としても秘書としても未熟すぎる。

 しばらく俯いたままでいると、ふと頭の上に重みを感じた。

「謝らなくていい。こっちこそ嫌な思いをさせて悪かったな」

 泣きそうになるのをぐっと堪えて首を横に小さく振る。常務の手は思ったよりも大きかった。

「堀田は、坂本も一緒で中学のときからの同期で製薬会社の跡継ぎなんだ。昔から何かとつっかかってくる奴だったが、同じような会社を継いでから余計に面倒になってな。にしても、まさかお前が言い返すと思わなかったから正直、驚いた」

「だって常務のことをものすごく誤解されているから」

 なんとも子どもっぽい理屈だとは思うが本当のことなのでしょうがない。

「別にいい。俺は昔から人にどう思われるのとかあまり気にせず振舞ってきたしな。それに……お前がそうやって分かってくれているならそれでいい」

 そんな風に言われて堪えていた涙が目の端から零れた。それを悟られたくなくて俯いていると常務はしばらく優しく頭を撫でてくれていた。

 なんだろう、色々な想いが交錯しながらも、私はやっぱり常務のことが好きなんだとようやく自覚出来た。この気持ちは初めて会ったときに抱いたものとはまた別で、自分の中から自然と湧き出たものだった。
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