常務の秘密が知りたくて…
 それは王女のために自分を捧げて、その命までなげうったエリスと何ら変わっていなかった。前世でも今もいつも誰かのために尽くしてばかりで自分のことは二の次だ。

 どうしてお前はそうなんだ、なんで自分の幸せを一番に考えないんだ。募る苛立ちは自分勝手なもので、それを彼女にぶつけるのは間違いだとわかっていながら、抑えられないときもあった。

 彼女と関わりながらエリスと違うところを見つけては戸惑いと驚きが起こり、エリスと同じところを見つけては苛立ちと安堵を感じていた。それは知らないうちに彼女を思い詰めるだけのものになっていたらしい。

『私は、代わりなんですか?』

 泣きそうな彼女の問いかけを聞いてようやく気付いた。そんなつもりはなかったと言えば嘘になる。彼女にエリスを見ることも多々あった。でも、そうじゃないときだってあった。

 彼女に限らず秘書には何も期待していなかった。邪魔さえしてくれなかったらそれでいい。それでも彼女は雑用を含めたどんな仕事でも、妥協はせずにいつも一生懸命だった。

 自分だって決して余裕があるわけでもないのに甘えることも媚びることはなく、思ったよりも負けず嫌いで口答えもしてくるのが意外だったが、そんなやりとりが今までにはないもので、どこか心地いい。

 それは彼女がエリスの生まれ変わりだから、というわけじゃない。彼女だから、なのだ。そう自覚したところで俺に出来ることがなんなのかわからない。ただ彼女が笑ってくれていたら、幸せでいてくれたらそれでいいだけなのに。
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