リーダー・ウォーク

結局あれこれしているウチにオバサマと目があってしまい
軽いご挨拶をしてオバサマの飼い犬のアリッサちゃんと触れ合うチワ丸。
お互いに気があったのか匂いをかぎ合って楽しそうにしている。
稟としては良いことだと思って見ていたのだが、飼い主様はちょっと不満顔。

「……チワ丸め」
「いいじゃないですか。何事も経験ですって」

食事を済ませアリッサちゃんとも別れを告げてお店を出ると
チワ丸はちょっとだけ寂しそうにしていた。

稟としては一緒に遊べるお友達ワンコが居てもいいと思うけれど。

「チワワ2匹か」
「それは辞めたほうがいいと思います」
「だよな」

車に戻りチワ丸を専用のケージにしまうと大人しく寝転ぶ。
稟も助手席に座って、これはチャンスとばかりに説得にかかる。

「素直にランとかいって友達つくりましょ。すぐですって。そうだ、
ペンションって他のお客さんとか」
「犬とだけなら仕方ないから付き合ってやっても良い。でもそうじゃないだろ。犬には
必ず飼い主がついてくる、自分の考えを押し付ける鬱陶しいババアだとかオッサンとか」
「若くて可愛い女の子とか。美人なお姉さんとか!」
「そんなのは大体男に貢がせてかわせるような面の皮厚い女だろうよ。
それか犬をオモチャみたいに扱うような奴。可愛い子は嫌いじゃないけど、
そういうの見てると興ざめするんだよな。マジで」
「犬が絡むととたんに判定がシビアですね」

もともとの性質なのか、あるいは財閥という特異な家に生まれたせいなのか。
彼は他人への興味が極端に薄く、自分に深く関わってほしくないと思っている。
その代わり自分の手元に置きたいものだけは頑なに守る。
その時だけの関係とか美人とか可愛い子はそれなりに好きみたいだけど。

それでも仕事ではそんな素振りは見せずにきちんと兄を除く上司や部下とも
仲良く付き合って結果を出しているのだから、あのモデルさんじゃないけど、
松宮と付き合ってみるとそのギャップに驚く。


「そうか?普通だろ」
「そうかなあ」
「なあ。何でチワ丸はあのチビチワワのケツを追いかけてたんだ?」
「それはアリッサちゃんの事を知りたかったんだと思いますよ。おしりの匂いを
嗅ぐと犬だけがわかる情報があるんです。わんちゃん鼻がいいから」
「ほう。なるほど。あれで自己紹介してたわけだな。お互いに」
「はい。それから仲良くしてたから相性も良さそうでしたけど」
「相性、ねえ」

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