リーダー・ウォーク

アリッサちゃんは常連っぽかったからまたあの店に行ったら会えるかもしれない。
ただ飼い主のオバサマは見た目も言動も曲者っぽかったので松宮は嫌がるだろうけど。
車は稟の部屋へ到着し、何も言わなくても彼らは当然のように上がり込む。

それは想定内のことで特に異論はなかったのだけど。

「……」
「な、なんですか!いきなり!ちょっと」

部屋に入って閉めきった部屋を開け放とうとベランダへ行こうとしたら
いきなり手を掴まれて彼の胸に引き寄せられて、ぎゅっと抱きしめられた。
それだけじゃなくて稟の首筋に顔を埋めてきてびっくりするしこそばゆくて身を捩る。

「流石に尻の匂い嗅いだら怒るだろ?」
「ば、馬鹿!」

それは犬のお話でしょ!

クンクンと首筋から耳の裏にかけてのラインを優しく鼻がなぞって匂いを嗅がれる。
やたら匂いのことで頷いてると思ったらこんなことを考えていたのか。

「怒るなよ。でも。そうか。匂いな。…考えたことなかったけど、こう改めて嗅ぐと」
「嗅がないで!いや!臭いから!犬とか汗とか何か色々臭いから!」
「俺、あんたの匂いが嫌だと思ったことないんだ。そうか。…相性、いいんだな」
「私は嫌で……ひゃ…も…くすぐったい」

最初は際どい距離で匂いを嗅いでるだけだったのに、いつの間にか彼の唇が
稟の肌に優しく吸い付いてきた。ただでさえ恥ずかしいのに、これ以上されたら
むず痒いし悲鳴を上げそうだから必死に手で松宮の体を押す。

チワ丸は既にきゃりーから開放されておりベッドで休憩中。

「……あんたはどう?俺の匂い」
「えぇ?…う…うぅ…ん……高そうな香水の匂い」

言われて馬鹿正直に匂いを嗅いだ。いつもの香水と彼自身の匂い。
不覚にも嫌いではないと思ってしまった。
抱き寄せられて匂いを感じることは今まで何度かあるけれど、
自分も言われてみれば彼の匂いを嫌だと思ったことはないかも。

「不快じゃないならいい」
「ない」
「よかった。…あんたがあの男を追いかけないでくれて」
「そんなの」
「ああ、これはもう終わったことだな。そんなことより俺達の関係をもっと発展させないと」
「発展って?」
「それを今ここで俺に言わせるのか?いいよ?今後の予定を今から」
「やめておきます。窓あけたいからもういいでしょ?離してください」
「はいはい」

やっと開放されて急いでカーテンをあけて窓を開け放す。
ここちよい風がふいて気分がいい。首筋とか耳の裏を刺激されたせいで
顔もそうだけどもう全身まで熱くなってしまったから、よけいに。
今日は先にシャワーを浴びたほうがいいかもしれない。

「今日大丈夫でした?4時なんてまだ仕事中だったのに」
「ああ。一番上の奴に話をしてきたから。あいつが納得したら誰も文句ないだろ」
「確かに社長ですもんね」

押しにも弱そうだし。でも次男さんは怒ってそうだ。

「さて風呂にするかな。なあ、稟」
「着替えはそこ。お風呂はあっち。行ってらっしゃい」

疲れた様子で風呂へ向かう松宮。何も思ってなかった彼の後ろ姿。
でも今は少し、違って見える。

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