リーダー・ウォーク

「伊太郎ちゃん。オテ。……あああ!可愛い。なんて良い子。
熊八ちゃんもオテ!……あああ良い子!ほんと良い子!」

本日はカット犬の他にラブラドール・レトリバーとボルゾイのシャンプー。
二匹ともよく人に懐いていて暴れること無く大人しくトリミングさせてくれる。
先輩たちもここまで大人しいのは初めてだったようで珍しいと見ていた。

「伊太郎。熊八。良い子にしていたか?迷惑はかけてないだろうな」
「とんでもない。ふたりともっすっごく良い子でしたよ」
「そうですか。良かった。すみません、突然予約を入れてしまって」
「いえいえ」

井上がトリミングの予約を入れたのは稟が休みだった昨日の夕方。
そしてシャンプーに時間がかかるだろうからと連れてきたのは朝だった。
二匹ともシャンプーが終わってケージに入れられている間も大人しく座っていて、
稟が近づいて頭をなでても嬉しそうに尻尾を降っていた。

けどやっぱり飼い主が来ると嬉しいのか必死に彼の元へ行こうとジタバタしだす。

「伊太郎。熊八。待て」

だけど井上がそう言うとぴたりと足を止めまた大人しく待つ。

その間にお会計。

「何時も井上さんがシャンプーしてるんですよね。
もつれも抜け毛もなくて毛艶が良いから。上手なんですね」
「まあ、アイツラが子犬の頃からやってますから。少しは」
「今度教えて貰おうかな」
「え?あはは。そんなプロに教えるほどじゃないですよ。今回は崇央様が
今度うちの二匹とチワ丸を引き合わせたいと言っていて。
ここはちゃんとプロに綺麗にしてもらったほうがいいと思いましてね」
「え!そうなんですか?崇央さん、ついにチワ丸ちゃんにお友達を」

あんな頑なに友達を作るのを拒んでたのに。特に女の子は。
伊太郎と熊八なら知った人間の犬だから大丈夫だろうと思ったのか。
大きさがだいぶ違うけど、あの二匹ならイジメることはしないだろう。
チワ丸も好奇心と勇敢さがあるから慣れてくれるだろうし。

是非その場面が見たい。頼んだら見せてくれるかな?

「はい。友達を作りたいそうです。といっても、こっちは大型なので。
そこは注意していていないと駄目ですけどね」
「チワワの友達も欲しいですよね。アリッサちゃんまた会えないかなあ」
「でもあの崇央様がここまで変わるとは思わなかったので、さすが吉野様だなと」
「わ、私は別に何もしてないですよ調教師じゃあるまいし!」
「え?調教師?」
「なんでもないです」

二匹を引き渡し井上を見送り、稟の本日のトリミングは終了。
先輩たちはご指名のお客さんからのトリミング中。
何時か自分もカットのご指名を受けられたらいいなあ、と憧れる。
指名してくれるのはスムースチワワちゃんなのでシャンプーのみ。

でもそれでも十分。ありがたい。

いや、でも彼氏の犬なのでノーカンになるのだろうか?
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