リーダー・ウォーク
三男さんを本気にさせる

「おはようございます」
「おはよ。朝はやくて悪かったな。チワ丸もまだ眠いみたいで寝てる」
「それは仕方ないです」

何時もなら稟に相談してからチワ丸を遊ばせるか決めているのに。
今回は彼の独断で決めたペット可のペンション。犬用エステもあるそうで
これはかなり高級な場所なのだろうと今からちょっと興奮気味な稟。

なんだかんだ言ってその話が出てから楽しみにしていて
ぎりぎりまで忙しそうな松宮に内心はハラハラしていた。

朝早くに彼の車に乗り込んで目的地へ出発する。
詳しい場所は聞いていないけれど、
早く出ないと行けない時点で結構な遠出になるのだろう。

「あんたも寝てていい」
「ふっふっふーん」
「何だよ気持ち悪いな」
「酷いな。崇央さん朝早いだろうからおにぎり作って来たんですよ?
暖かいお茶も用意したし。どうですかこの女子力!凄くないですか?」

この日のために炊飯器を買いました。4980円のやつ。

「なにそれ。こんな朝も早くから米とか誰が食うんだよ」
「……そんな事言うんだ。崇央さん」
「嘘だ。今のは嘘だ。食うから。でもほら運転中だから後で食う」
「……」
「わかった、30分後に食う。お茶も飲む。だから怒るな」
「……」
「わかった。すぐ食う。そこに車止めて食うから」
「無理しなくていいです。全部私が食べるから」

男の人だからと頑張って合計6個も作ってきたけど全部食べてやる。
彼からもらったカバンから握り飯を包んだ袋を取り出しかじりだす。

「あんたなぁっ…そこに入れんなよ握り飯を」

高速に入り30分ほど走った所のインターで車を止めて朝食。
といっても稟が無理をして4個食べたので残りは2個。

「……うっぷ。気持ち悪い」
「悪かったって。残りは全部食うから」
「崇央さんは朝食なんか食べないんですもんね。自分の分だけでよかった」
「ああ、分かってくれてんなら次からそうしてくれよ」
「……」
「あ。いや。……すまん」

絶対ぜったい朝食をきちんと食べるようにしてやる。
その方が体にもいいのだから。

「……」
「けどさ。この握り飯なんでこんなデカイの?形もなんか丸いし?握り飯なんて
コンビニで見るくらいだけどこんなでかくないよなあ?あんたの家じゃこれが普通?
別にいいんだけどちょっと食いづら」
「うるさい」
「聞いただけで怒るなよ。何でそんなピリピリしてんの?」
「崇央さんの為に一生懸命作ってきたのにこんな扱いされて辛いだけです」
「泣くなよ」
「泣いてないです。ほら、さっさと食べてください。もう二度とおにぎり作らないから味わって」

私だって初めての彼氏との旅行で張り切ってるんです。でも出鼻を挫かれて
ちょっとうつむいただけです、泣いてないですギリギリで。チワ丸が居たら
ギュッと抱きしめて癒やしてほしいけれど、
彼はまだ眠いのか後ろのキャリーの中で大人しい。

「稟。なあ」
「もう怒ってないです」
「…じゃあキスして」
「は?」
「仲直りのさ。ほら。キスを」
「これ以上顔を近づけたらパンチしますよ?」
「ほんとなんでそんな怒ってんの?」

しょっぱなからこんなで大丈夫かな、この旅行。
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