リーダー・ウォーク

チワ丸を家に残してきたので稟の顔を見たら泊まらず帰るらしい。
何時までたっても電話にでないからそれでムキになってかけ続けて、
マンションのそばで待っていたとか。電話が通じるとすぐに部屋にくるとか。
実に彼らしいというか。明日にはちゃんと電話するって言ってるのガン無視。

あと、稟が別の犬を可愛がっている素振りを見せたから怒っている。

稟の家の犬でもお構いなし。まさかそこまで怒るとは思ってなかった。


「実は明日もちょっと忙しい」

荷物を引き渡し時間も遅いので玄関までお見送りをする。
靴を履き終えた彼と目があって。少しの間があいて、
松宮に手を優しく引かれて彼の胸の中。ギュッと抱きしめられて。
キスとか、甘いセリフでも来るかと思ったらまた忙しいお仕事の話し。

「明後日は大丈夫ですか?」
「何度でも言う。辞めてもいい覚悟でやってる」
「信じてます」
「あのカバン使ってくれよ?」
「はい」

でもゆるく抱きしめたままコツンとおでこを合わせてきて軽くじゃれてきた。
稟もさりげなく高宮の腰に手を回して抱きしめ返してみる。

「……駄目だ。このままじゃ帰れん」
「ふふ。明日も頑張ってください」
「あんたも仕事か」
「はい」
「そうか。んー。じゃあ。また夜電話する」
「はい」
「……」

そう言いつつも中々稟を離さない。

「崇央さん。チワ丸ちゃんが首をながーーくして待ってますよ」
「わかった。よし。手を離すぞ」
「はい」

開放されると抜けていく温もりがちょっとだけ寂しい。
けど、また会えるし。チワ丸が待っているから、笑顔で彼を見送る。
松宮が帰ったら玄関の戸締まりをして。軽いため息。

あの人に体を触れられることにどんどん慣れていっている。
それ以上にもっと触れたいと思い始めた自分がちょっと怖い。
何がどう怖いのかと自問自答しても答えは見つからないけど。

「あ。そうだ。上総さんにもメールしとこう」

弟以上に忙しいであろう人だから返事は期待していないが
あれだけ優遇してもらったのだから簡単な感想とお礼を述べる。

それだけ終えたらシャワーを浴びて。

さっさと布団に包まって部屋の電気を消した。

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