リーダー・ウォーク

朝早くから車に乗って移動して一般道から高速乗って途中休憩を挟んで。
どこをどう行ったのかは助手席の人間にはさっぱり覚えてないけれど。
到着したのはお昼前。

小高い丘の上に建つ景色が最高に良くて建物自体も比較的新しいペンション。

ペット可としているだけにアジリティの充実したドッグランや景色がいい散歩道、
果てはテニスコートなんかも見える。受付をした建物内でもレストランやエステなど
人間も犬もリラックスできてリゾート気分を味わえる作り。

正直、ペンションっていうからもっと小規模なものを想像してた。さすが松宮様。

「ははん。これは最低でもお一人様3万は下りませんなぁ」
「なあ稟。エステしたいって言ってたよな。何時にする?」
「いいです。いいです。ゆっくり休憩したらそれでいいです」
「そう?じゃあ、部屋行こうか」
「はい」

受付を済ませた松宮に連れられてフロントから移動。
てっきりこのペンション内の部屋だと思ったら一旦外へ出て裏手にある別棟へ。
やはりペットと一緒だと別になるのだろうか。

別棟というか、ロッジみたいな一軒家に入ったんですけど?

「ほら。ついたぞチワ丸。悪かったな、長い時間閉じ込めて。遊んでこい」

何の説明もなくロッジの鍵を開けて中に入り、ずっとキャリーに入れっぱなしだった
チワ丸を部屋に放つ。
じっとしているのが嫌だったのか部屋を楽しげに走り回るチワ丸。

「え?あの、ペンションっていうか…ロッジ借りちゃったんですか」
「ああ。あそこだと他所の犬と顔合わせるだろ?ロッジもあるって聞いたから。
だからココに決めたんだ。それなら安全だし、完全に俺らだけになるしさ」
「えーーーー!?」
「何だよ。ああ、飯はちゃんと向こうで食うから」
「そ、そうじゃなくって。あの。…えええええー!」
「煩いぞ。ほら。カーテン開けてきて。空気の入れ替えしよう、何か空気悪い」
「……は、はい」

別のワンコとのふれあいをさせたいと思ってるんじゃなかったの?
こういう場所って当然ほかのワンコもいるし、さすがにここを貸し切りにはしないだろうし。
そんな話もしてなかったから安心してたのに。
前日は井上家のワンコたちと引き合わせると聞いたから余計にそうだと思い込んでた。

カーテンを開けて窓をあけて空気を入れ替える稟はちょっとショック。

彼らしいと言えばらしいはず、なんだけど。

「なあ。稟。約束通りキスしてくれ」
「うあああ!」
「いきなり悲鳴あげるなよ」
「いきなり背後から抑えこんできたから」
「抱きしめただけだ」

考えこんでたせいで完全に油断してた。
松宮に後ろからギュッと抱きしめられて変な声をあげる。不機嫌そうに
眉をしかめる松宮だが、稟を自分の方へ向き直させて見つめあう。

「…ねえ、崇央さん」
「何だよ」
「もし、向こうで可愛いチワ子ちゃんが居たらこえかけてもいい?」
「はあ?飼い主がこんな我慢させられてんのにチワ丸が先に女とじゃれんのかよ」
「何処でもキスするから」
「可愛いか美犬限定だ。デブとブサイクはナシだ。いいな」
「…貴方って本当に最低な人」

何で私こんなとこきちゃったんだろう。

「何で?普通だろ?チワ丸だって遊ぶならキレイな方がいいって思うさ」
「ほんと…いっかい殴らせて欲しい」
「んなことより。どこにキスしてもらおうか。何処でもいいんだもんな」
「……」
「そんな顔したって駄目。なあ、稟。あんたの唇が欲しくてたまらないんだ。くれよ」


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