リーダー・ウォーク
どこまで許せますか


「安心しろ。お前に何かあったら俺がすぐ助けに行くから。そんな潤んだ目をするな。
お前は大人だろ?これくらい我慢できるだろ?な?良い子だから、すぐ終るから」

ワンちゃん用エステ受付のテーブルにて。グルーミングされるチワ丸を送り出す
飼い主さんの涙ぐましいお言葉。茶化す様子もなく本気で言っているのだから。
最初は彼の見た目に色目を使っていた受付のお姉さんのやや冷めた視線も納得。

「チワ丸ちゃん怯えて若干震えてましたけど、やっぱりやめたほうが良かったんじゃ」
「いや。これはあいつを強くするための試練なんだ。あんた以外にも触れてもらわないと」
「確かにそれは大事なことだと思いますけど」

あの大きな目を潤ませ不安そうに見つめるチワ丸。それを見つめ返す飼い主も
若干涙目でやや鼻声。もういっそ泣いていると判定してもいいくらいだった。
心配になるのは十分わかるしあんな顔をされては不安にもなるけれど。
いい大人で仕事も出来て女にも手慣れている色男のしていい顔じゃない。

なんとか決心がついたようでチワ丸をエステに出し二人きりになってロッジへ戻ってくる。
夕飯は彼のエステが終わって引き取ってから一緒にとる予定。


「さって。俺はシャワー浴びるけど。あんたどうする?」
「お先にどうぞ。私は後で」
「わかった」

さて。ここからだ。

「……二人きり。か。ちょっと心許ないんだよね」

稟の部屋に泊まりに来る時は何時も当然のようにチワ丸が居た。
けれど今は居ないわけで。正真正銘二人きりで一時間はすごさないといけない。
考えこんだって答えは出てこないし、松宮はシャワーへ行くし。これはもう後はアレだ。

やばい無駄毛の処理、甘いかもしれない。
下着は上下セットのなんてないから雰囲気似たようなのにしただけだし。

「しまった。ビール買ってきたらよかった」
「その前になんで貴方は何時も風呂あがりはタオル一丁ですか?お父さん?」

ソファに座って悩んでいたらあっさり風呂場から出てくる松宮。
もはや見慣れた腰にタオル一枚スタイル。冷蔵庫を開けて買ってきた水を飲む。

「いいだろ別に。父親の裸なんてみたことないな。見たいとも思わないし」
「……じゃあ、私も行ってきます」
「行ってらっしゃい」

これって「もう俺は準備万端だぜ」とかそういうアピールなんだろうか。
けど何時もこんなだからよくわからない。
とりあえず自分も汗をかいたしシャワーですっきりしたい。



「……お、…お待たせしました」
「え。なに。何でタオル一枚?」
「だって。その方が、いいのかなって」

手がふやけるほどシャワーを浴び続けながら出した結論が
稟もタオル一枚で彼の前に登場。

「脱がすのも楽しみなんだけどまあいいか。そんな時間もないしな」
「……」
「寝室行こうか。それとも好きな場所とかあるなら聞くけど?あ。外は虫が」
「寝室でいいです」
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