リーダー・ウォーク
飼い主に似てくるらしい
彼の性格上面倒がって嫌がるかと思ったのに想像以上にごきげんに準備を始めた。
母親を連れて行くのはどんなお店にしようかとか、どんな格好がいいかとか。
これで演技だったらこの人の人格を疑うレベルなほどに。

どうしよう、こんな真剣に想われて。愛されて。私はそれにこたえられてる?



「なあチワ丸スーツとかどうよ?やっぱここは正装だろ?」
「……」
「そうかそうかよしよし。え?白の?これはタキシードだ」
「崇央さん、来週のミーティングには絶対チワ丸ちゃん連れて行っちゃダメですからね」
「え?なんで?いいだろモデルにするんだよモデル。なぁチワ丸」

食事などでチワ丸をひとり待たせていたりするとご褒美といって高級なおやつをあげて
抱っこして頬をスリスリして、機嫌がいいとこうして犬のグッズ専門店へ行ったりする。
それはもういつもの事だし稟にとっても楽しいから全くかまわないのだけど。

慣れてない社員さんがみたらと思うと。

社会での松宮は出来る男で通っている。なにより、社長の弟という立場がある。
それを崩してしまうのはちょっと申し訳ない気持ち。

「駄目です。お仕事で振り回されたらチワ丸ちゃんがかわいそう」
「それもそうか。まだこいつにはモデルの教育をしてないからな」
「ストレスでハゲちゃったらどうするんです」
「そ、そんなこともあるのか!?こんなツルツルなのに!?ごめんなチワ丸俺が間違ってた!」
「……犬には即謝る素直さ」
「なに?」
「いえ」

もういいんです今に始まったことじゃないんだから。それが松宮崇央という人なんだから。
スーツはまた今度にして、低脂肪のおやつを買ってお店を出る。
チワ丸は嬉しそうに松宮に抱っこされて尻尾を振って稟の顔を見つめている。

「そうだ。送ってくついでにあんたの行く新店舗見ていこうか」
「良いんですか?」
「どうせ通うことになるんだから、俺としても丁度いい」
「じゃあお願いします」

車に乗り込むと危険なのでチワ丸は後ろの固定されたキャリーの中へ。
寂しそうにうるうるとした瞳で見つめてくるがここは心を鬼にする。

「男、多いかな」
「店長は男性だそうですよ。あと応援で来てくれるトリマーさんも男性」
「……ふーん」
「元は専門学校の先生だったそうで、すごい緊張してるんです。でもお話出来たらいいな」
「……ふーーん」
「トリミングのお話ですからね?」
「じゃなかったら何話すの?」
「……、天気とか」
「あんたってちょっと、馬鹿入ってるよね」
「酷い傷つく」

確かに頭はよろしくはないですが、馬鹿とか言わなくても。

「わかったわかった。じゃあ天然って言い換えるから」
「結局馬鹿扱いじゃないですか」
「馬鹿より天然の方が女は嬉しいと思って」
「嬉しくない。……崇央さんの意地悪」
「優しいだろ。稟が嫌っていうからあれからセックス我慢してるのに」
「……未満は毎回するくせに」
「健全な男の普通の行動だと思うけど?」
「……」

くそ、経験がなさすぎて普通がどんなものか知らないから何も言い返せない。
恋愛関係においては経験値の差がありすぎて勝負になってない気がする。
稟はちょっとふてくされた顔をしながら視線を外に向ける。

「俺と話すのも手を触れられるのも嫌っていうなら先に言えばいい。
無理矢理に付き合わせても面白くない」
「そこまでは思ってません。崇央さん、……好きだから」
「はいもう一度」
「そこまでは思ってません」
「その次」
「チワ丸ちゃんが寝ちゃいましたね。幸せそうだなぁー」
「言うまで降ろさないからな」
「やっぱり意地悪だ!」
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