リーダー・ウォーク
本日の夕食は松宮の知り合いのお店らしい。店主と何やら楽しげに会話して
チワ丸の入ったキャリーを別のスタッフに預ける。和服の店員さんに案内された
席はもちろん個室。予約をした際に先に料理も注文してくれていたようで、
席につくなりすぐに和食のコース料理が運ばれてくる。

「美味しい」

いただきます、と手を合わせたら遠慮なく高級食材に箸をつけご満悦な顔の稟。
もうすっかり彼氏に高級で美味しいものを食べさせてもらうことに抵抗は無い。

「来週の火曜って休みだったろ。会社これない?
プロジェクトのちょっとしたミーティングしようと思ってるんだけど」
「ごめんなさい、予定が」
「そうなんだ。俺、何も聞いてないけど。どういう予定?」

稟の返事に松宮がピクリと反応する。上京してからというもの、
ろくな交友関係のない稟に休日の予定というものは全くの無縁だったから。

「母親が来るんです。それで街を案内しようと思ってて」
「マジで?父親は来ないの」
「はい。母だけです。だからごめんなさい」
「いや、いいよ。……そうか。じゃあ挨拶がてら飯食おうか」
「え。でも、忙しいんじゃ」
「挨拶は大事だろ。付き合っておいて挨拶もしない男と思われても嫌だからな」
「……はぁっ」
「ん?なに?どうした?」
「い、いえ。なんでも」

そういえば母親に彼氏が出来たって言ってない。

松宮は稟が既に親に話しているテイで喋っているけれど。母親は稟に彼氏が居る事は
知らないから、もしかしたら前に話していた見合い写真なんかも持ってくるかもしれない。

「まぁ、任せとけ。いい店予約しておくから」
「そんな気にして貰わなくても、母親もびっくりしちゃうだろうし」
「チワ丸も挨拶させないとな、あいつチビらなきゃいいが」
「親に紹介とか面倒だって言いそうなのに、凄い乗り気ですね」
「そうだな。今まで何回か親に紹介するから家に来てくれとか言われたけど全部断った」
「そんな感じですよね」

その瞬間は相手への情熱があるけど、そんな先は見通してない交際をしてそうなイメージ。
だから優しくされる度に、何時この交際にも飽きてポイっと捨てられるのだろうかと思うときもある。
最初親に言えなかったのも、松宮という男にそこまでの信頼がなかったからというのが大きい。
それを彼に言うと絶対に怒るので言わないけれど。

「ちょっと遊んだくらいで親に紹介とかナイし。行ったってどうせあの松宮家の!とか
大仰な言い方されて速攻結婚話に持ち込まれて、こっちの話なんか聞きやしないんだ」
「崇央さんは家の事言われるの好きじゃないですもんね」
「ああ嫌いだ」
「うちの親は松宮家を知らないですから、その辺は大丈夫ですよ」
「あんたの親はどんなだろうな」
「そんな期待されるほどのものはないです。ただの田舎っぺですから」

母親には後できちんと話しておかないと「騙されてるんじゃない?」と心配される気がするけど。
それは稟自身でもまだ不確定な所で否定しづらいけど。

「観光するなら車あったほうがいいよな。俺もちょっと休んで行こうかな」
「来なくていいですから。崇央さんはお仕事がんばってください」
「でもなあ。気になるよなぁ。稟の母親」
「そんな子どもじゃないんですから」
「でもさー」
「崇央さん」
「はいはい」
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