リーダー・ウォーク

アラサーな娘が付き合っている相手を親に紹介するとなると
やはり「それ」を期待させてしまうだろうか。
まだ10代とか20代前半なら紹介だけで終われたかもしれないけど。

「どうしたの吉野さん最近元気ないけど。新店舗、やっぱり気が重い?」
「いえ、そうじゃなくて。近々母親が田舎から様子見に来るんです」
「そうなんだ。親をもてなすってちょっと考えちゃうね。まあ、色々一緒に
みて回ったらいいんじゃない?ド定番な観光地とかもあるわけだし」
「はい。雑誌とか立ち読みしてて、いくつか見て回る予定です」

両親には感謝しているし、早く安心させたいとも思っている。
いい歳の女がなんのアテもないのに専門学校へ通い今までよりお給料も待遇も
ぐっと下がってもトリマーの道を許してくれた。
たまに支援としてお米や野菜を送ってくれるのもありがたい。
そして、独り立ち出来る技術を身につけたら田舎に戻ると思っている両親。

「いいなあ。両親と仲よくて。うちは妹贔屓だから。私はあんまりなんだよね」
「私は一人っ子で離れてますから心配されてるのもあるんです」
「ああ、都会で悪い男に引っかかってないかとか?
でも吉野さんしっかりしてるしそれはないか」
「あはは。……はは、……はははは」

アレは悪い男に入りますか?先輩。

凄く聞きたいのを必至にこらえ、本日のお仕事を終える。
母親を迎える日が近づく。今のところ天気も良いし相手も来る気満々。
連絡も取り合うが未だ言えずに居る。タイミングというか、なんて言おうか。
サクっと流れるように言えばいいのに、何をためらってるんだろう。

「最近付き合い悪いから忘れられたのかと思った」
「そう?」
「うん。だから、こうして一緒に歩けて嬉しい」
「別に誘ったつもりはないけど、歩きたいなら歩いたら良いんじゃない」
「またそんな冷たい言い方するんだから崇央は」

高そうなスーツ着た長身のエリートサラリーマンとモデルのような美女。
釣り合いが取れた綺麗なカップルが信号待ち中も仲良さそうにしている。
都会の繁華街ってこんな光景をよく見る気がする。いや、違うな。

アレはウチのアレだな。

だってよく見たら持ってるのビジネスバッグじゃなくて最近ハマっている
ブランドから出た最新の犬キャリーだ。
どうしよう、青になったら歩き出して鉢合わせる。というか目的は自分?
妙な恥ずかしさがあってだんだんそれを避したくなってきた。

でも今更そんなUターンとかしても変だ。

「ここは携帯でもいじって気付かないフリして行こう」

さりげなく横へズレて携帯を手に青担った信号で一斉に歩きだす。

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