リーダー・ウォーク

「怒ってる?あ、さっきの子は横歩いてただけだから」
「腕組んで歩いておいて凄い説明ですね」
「そんなのどうでもいいだろ。そりゃ連絡しなかったのは悪いけど」
「そういうことでも」

やはりそこに居たのは偶然などではなく、目的は凛。素通りなどするはずもなく
一直線に稟に向かってきて、凛を目についた適当なカフェに誘った。
途中まで一緒に居た謎の美女は何やら怒っていたっぽいがそれを気にするような
人間ではないのでもうすでに記憶から消えている様子。

「どういうことだよ」
「何でそっちがちょっと怒ってますか?所でそのキャリー、どうしたんです?
チワ丸ちゃん入ってないからびっくりしました」
「ほら、プロジェクトにペット業界に詳しいやつ集めるって言ったろ?
で、集まったヤツに教えてもらったんだ。会員制のペットホテルの一時預かり」
「へえ!お預かり!今もしかしてチワ丸ちゃん一人で!?」

というか、チワ丸を他人に預けるなんて事をこの男がするなんて驚き。

「最初だから30分だけな。部屋1つ貸し切りで今の状態がわかる
カメラセットして逐一スマホで見てるが今のところ元気そうだ」
「で、でも、それでもすごい進歩じゃないですか」
「何時何があってもいいように何時もと違う環境も慣れさせようと思ってさ」
「なるほど」
「1時間くらい預けられるようになれば俺達で楽しめてあいつも伸び伸び出来る」
「1時間のたのしみ?」
「ずっとキャリーに入れられたら可哀想だろ?」
「じゃあしなきゃいいんじゃないですか」
「そうか。じゃあ、稟は我慢が限界に来た俺に乱暴されたいんだな?
興奮していいかもしれないけど力任せってやったことないんだけど稟がどうして
もっていうならしょうがないか。服とか破るけどどうせ後で買うからいいよな?」
「……いえ、結構です。しないでください、普通でいいです」
「あっそう」

とても酷い脅しを受けた気がするけど、相手が爽やかな笑顔なので
周囲を気にして何も言えない。絶対わかってて言ってるこの人。
そんな不純な理由だけじゃなくてチワ丸にイレギュラーが発生しても
大丈夫なようにしてやろうと思っての事なのだろうけど。

「崇央さん。お夕飯は?
良かったらチワ丸ちゃんお迎えしたら私の部屋で食べません?」
「メニューは何」
「希望を言ってもらえたら適当に作ります」
「じゃあ稟に任せる」
「スーパー寄ってもらってささっと買い物して行きましょう」
「わかった」

30分のお預かりを経て、尻尾を何時も以上に激しくふるチワ丸を
キャリーに入れて車に乗り凛の部屋へ。
途中いつものスーパーにて買い物。勝手にポンポンと高級なワインだの
チーズだのを入れてくる男に不満な顔をするも、お会計は彼なので許す。


『ごめんね、今忙しかった?』
「ううん。大丈夫、夕飯の準備してただけだから」
『そう。ちゃんと野菜も食べてる?偏ったものじゃダメだからね』
「はいはい」

台所でゴソゴソしていたら唐突に携帯が震えて慌てて取る。
彼はリビングでチワ丸と遊んでいたが、相手が気になるのか
じーーっとこっちを見つめているから怖い。

『それがね、今度稟のところへ行くっておばさんに言ったら
お見合い写真山ほど託されちゃって。重いから先に郵送してもいい?』

郵送するくらいの見合い写真ってどれくらいストックしてたんですか?
あの田舎にそんなに若者は居るはず無いので、おそらく半数以上は
稟より年上。それもかなり年上。

「そのことなんだけど」
『ん?なに?』
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