リーダー・ウォーク

中々言えなくてごめんなさい。
でも私実はもう彼氏が居るんです。そう、都会の人です。
ちゃんとお仕事してる人です、りっぱな役職もある人です。
歳は少し上ですが気持ちはとっても若い人です。元気です。


これなら嘘は言ってないし親も納得するだろう言い方だと思う。

『既婚者は駄目よ稟』

まさかそうくるとは思わなかったが、でも稟より年上でそれなりの
役職となるとすでに過程を築いていると思れても仕方ないのだろうか。

「違う」
『じゃあ、バツイチ?子どもが居るならちょっと考えたほうが』
「それも違う。……と思う」

そう言えばそこはちゃんと聞いてなかったな、どうなんだろう。
チワ丸の可愛がりをみるに子どもが居るようには見えないけど。
あんがいバツイチくらいはありそうな気もしないでもない。

聞いたらどツボな気がして今まで彼の女関係は聞かないできた。
聞かなくてもその片鱗は嫌でも目に入るし。聞かされるし。

『そうなの?……その人とは会わせて貰えるの?』
「うん、本人も乗り気だしそのつもり」
『じゃあ、お母さん美容院行かないと駄目ね。服も買いに行かないと』
「大丈夫だよそんな大げさな」
『でも、都会の人ってきっとお洒落なんでしょうね?田舎のおばさんなんて』
「いや、別にお母さんとお見合いするわけじゃないんだし」
『お父さんにもお話しなきゃ。場合によってはお父さんも来るかもしれない』
「わかった。じゃあ、相手にもそう伝えておく」
『凛。もう一度聞くけど、既婚者でもバツイチでも犯罪者でもないのね』
「とりあえず犯罪はしてないから大丈夫。安心して」
『わかった。じゃあ、またね』

やっぱりその辺気になるよね。
でもそんなはっきり犯罪者はひどくないですか。おそらく結婚詐欺とか
ヤクザさんとかその辺を想像したのだろうけど。
携帯をしまって視線を向けるとまだこっちを見ている一人と一匹。

「母親?」
「はい。もしかしたらお父さんも来るかもって」
「そう。じゃあ、やっぱり俺仕事休んで行くべきかな」
「観光もさせてあげたいので、緊張するのは夜だけで大丈夫です」

説明して安心させたら夕飯を完成させてテーブルにセッティング。
チワ丸も匂いに釣られて近づいて欲しそうに見つめるので
彼のための餌も用意して置いてあげたら速攻で食いついた。

「ん。なに。何か聞きたそうな顔」
「崇央さんはバツイチとかいう可能性ありますか?」
「あるよ。18のとき。ベガスで現地の女の子と勢いで」
「……」
「あのさ、そのやっぱりなっていう顔をするのやめてくれない?
バツイチな訳ないだろ?結婚なんてそんな興味もないし」
「あぁ」

そっちでもなんかわかる気がします。

「なに。親にそういうこと言われたわけ?」
「まあ親ですし、私もそれなりに歳ですし」
「……稟は願望あるわけ?」
「今はまだよくわかりません。でも、ずっとずっと一人は寂しいかなぁ。
犬や猫に囲まれるのも悪くないけど。やっぱりお話もしたいし」
「……」

さりげなく松宮の手に触れる。

「暖かいのもたまには触れたいし」
「へえ。冷めきってるようで案外寂しいって思うんだな」
「ある程度冷めてないとこの歳で一人でアテもないのに都会へ行こうなんて」
「そうかもな。あんたのそういう冷えた所嫌いじゃない。可愛くはないけど」
「どうせ何処も可愛くないですよ」

大きな手に握り返されて、そこから体まで温まる。不思議な感じ。
よくわからないままお付き合いをしてきたけれど、
やっとその意味とか楽しみとか、大変さを理解してきた。

「気持ちイイとこ突かれると可愛い顔で俺の顔見つめてくるけど」
「そうですか知りませんでしたご飯食べてください」
「凄い甘えてくるし普段と凄いギャップあって最高」
「ご飯食べたら帰ってくださいね」
「この流れで帰るわけないだろ?……あ、そうか。稟は俺に乱暴」
「ふつうにかえれー!」

大変のほうが最近押し気味なのが難点ではあるけど。
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