リーダー・ウォーク
彼と私の信頼関係

「稟。お母さんは貴方がしたいようにしてくれていいから。
都会で頑張るならそれでもいい、松宮さんと結婚するならそれでも」
「まだそんな先のこと」
「松宮さんは誠実でいい人そうじゃない。チワ丸ちゃんもいいこだし。
きっと、貴方を幸せにしてくれる」
「……うん」

いっぱいお土産を駅で買って母に渡して、あと5分もすれば電車が来る。
その僅かな間、なにか言いたいと思っても中々言葉にできずに
稟がモジモジしていたら母親が真面目な顔で言った。
松宮が結婚前提で付き合ってるなんていうから、母親もその気にした。
それは親として当たり前なのかもしれない。

「夢も大事だけどね、それ以上に出会いは大事になさい稟。
後で後悔したって戻ってこないんだからね」
「わかってる」
「貴方はお父さんに似て頑固だから。もっと余裕をもってもいいんだからね」
「そんなんじゃないしこれからも崇央さんとは一緒に居たいし……」

最初で最後の恋人であれば良いとも本当は思ってる。
だけど、素直にそれを受け入れたら後が怖い気がして。
結局稟は母親にも歯切れの悪い返事をして取り繕い見送った。

『母親は無事に帰った?』

駅を出て部屋に帰ろうとぼんやり歩いていたら携帯が震える。
相手は朝わかれた松宮。彼も気になっていたのだろう。

「帰りました」
『もしかして寂しいとか?何か不機嫌な声だけど』
「少し」
『そう。まあ、親といる間は何時もより声も顔も元気そうだったもんな』
「どうせ何時も不機嫌な顔です」
『自覚あるならちょっとくらいは笑えば?客商売だろ』
「……」
『冗談。怒るなよ』
「べつにおこってないです」
『さっきより更に声が不機嫌なんだけど?』

そんな稟とは反対に電話口の松宮は笑っているのか声が明るい。

「お仕事中でしょう?大丈夫ですか?」
『ああ。平気。やるべきことはやってる。ただあんたが心配だったから』
「そんな心配されるほどホームシックじゃ」
『母親の前では楽しそうで嬉しそうで、仲いいのはすぐわかる。だから親に
さっさと家に帰ってこいとか言われたら、帰りそうな気がしたからさ。
もし心が揺れてるなら、どうしようかと』
「母は私のしたいことを理解して応援してくれているんです。
だから、崇央さんとの出会いを大事にしろって言われました」
『……。そっか』
「本当に結婚前提で付き合う気あるんですか?」
『そうだけど?』
「そんな軽く言われてもな」
『じゃあ、婚約指輪でも買ってって夜景のきれいな場所で言えばいい?』
「その方がもっと軽い」

そのシチュエーションが松宮にお似合いだから余計嘘っぽい。
この話題を出すと相手もだんだんと怒ってくるので避けたい。
だけど、稟としてはまだ少し信じる気には正直なれず。
それを隠して付き合えばいいのに、ついポロッと言ってしまう自分の馬鹿。

『軽く見えるかもしれないけどさ、あんたにはこれから更に監視して束縛して
俺だけの稟にしていくつもりだから重さが気になるなら安心していいぞ?』
「……んと、今のは聞かなかったことにします」
『あそう。別にいいけど。そうそう、次の会議はこれそう?予定は来月なんだけど』

軽いんだか重いんだか、いまいち彼の心が読めないけれど。
自分の気持としては、やっぱり彼とチワ丸と離れたくはないので。
このままの関係を維持しつつ都会でトリマーとしてやっていくつもり。


「今度崇央さんの家に3日くらい泊まろうかな」
『わかった。じゃあ、何時が良い?その日までに用意しとくからさ』
「用意?」
『ベッドは俺と一緒でいいだろ。服とかパジャマとか女の日用品とか』
「3日なんでそんな……、監禁しようとしてませんよね?崇央さん?」
『鍵もつけておかないと駄目だな』
「かぎ?あの、崇央さん?いきなり重いというかそれは犯罪」
『あ、悪い。また夜電話するから。じゃ』

ちょっと不安も残るけど、頑張ろう。

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