リーダー・ウォーク

確かに悪意はないのだろうけど、あまりに言葉がストレートで時々鋭い。
それでも根はたぶん優しい人。少なくともチワ丸へは深い愛情を注いでいる。
部屋に戻ると力なく適当に寝転んで深い溜息をする。

するとぐーっとお腹がなった。

夕飯は何時もの通りに節約メニューでモヤシ多めの炒めもの。

『次の休みの日をメールで教えといて』

調理をし始めると携帯が鳴って、見に行ったら松宮から。
シフト表を見て休みをメールしておいた。返信はすぐにはないだろう。
忙しそうだったから。
だけど、そんな場でチワ丸はちゃんとおとなしく出来ているのだろうか?

稟が心配したって仕方ないのに、不安だ。


「見て見て。新しくはいって来たプードル!」
「わあ。小さいのに毛がふわふわですね」
「可愛いよね。ああ、どうしよう家に迎えたい…けど、30万か」
「すごい」
「血統もいいし毛並みもいいからね」

出勤すると先輩がテンション高く稟に新しい子犬を見せてくれる。
可愛くてふわふわでまだまだ赤ん坊なサイズ。
チワ丸も最初はこれくらいだったのに今ではしっかりして大人の体。

「いいなあ」
「吉野さんは実家で犬かってたっけ」
「はい。家には柴犬が」
「そっか。こういう小型もいいよね」
「憧れます」

もし、ペット可の部屋にうつったら自分も犬を飼おうかな。
プードルなんてカットが必要だし練習にもなるし可愛いしお洒落だし。
ポメラニアンもいいな、可愛い。
チワワも悪く無い。チワ丸と友達になるかもしれないし。

しかし現状、犬を迎えられるような余裕はないから憧れるだけ。

「チワ丸は相変わらず?」
「え?…はい。元気です」
「オーナーや松宮さんのプレッシャーに負けずによくやってるよね」
「……はは」
「ま、無理せず頑張れ」
「はい。ありがとうございます」

無理、してるように見えてるのだろうか。
トリミング自体はもういつもの事として何ら苦ではないけれど。
松宮とも基本はお客とトリマー、雇い主とバイトととして上手くやっていると思う。

周りがピリピリするほど彼は怖くない。はず。

鈍感な自分がその辺に気づいてない可能性は否定しない。

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