リーダー・ウォーク


それから数日が経過して。
松宮に休日のメールをしたこともすっかり忘れていた。
返信も無かったし。彼もそれくらい忙しいのだろうと。
最近は教えてくれとメールが来ることも少ないし。


「……うぅ…体が重い」

その日の仕事を終えて裏口から出てきた稟。
大型犬のシャンプーを1人でこなして何時も以上に疲労困憊。

「失礼します。吉野様」
「あ。あの、えっと。…秘書の方ですよね?」

とても落ち着く、静かな声の男性に呼び止められ振り返る。

「本来ならば崇央様が来るはずだったのですが、
予定が入ってしまい。私がお迎えに上がりました」
「え?何も伺っていませんけど」

何か言われてたっけ?慌てて携帯をみたらメールが1通。
速攻で開いたら松宮からで「行くから待ってろ」とだけ。
待ってろというか、来たのは秘書さんですが。

「今日はチワ丸の世話ではなく、お部屋のご紹介だそうです」
「あ!ああ。あれですかっ…そんな、場所さえ教えて頂いたら私」
「それは崇央様がお許しにならないでしょうから。さ、どうぞ」
「……はい」

今から?この状態で?部屋を見るの?

でも、わざわざ来てくれた人を追い返すのは心苦しいし。
なによりあの松宮が文句を言ってきそうなのでおとなしくする。
秘書についていき車に乗り込んで、全然知らない通りを行く。

「緊張しますよね。崇央様が居らっしゃらないと」
「私昼間ゴールデンをシャンプーしたんです!大人の大きいこ。
だから凄いそのこの匂いがします。すいません、せっかく綺麗な車なのに」
「そうですか、大変でしょう?私の家はボルゾイとラブが居ますよ」
「すごいですね」
「シャンプーは自分でしていますから、吉野様の苦労は少しは分かります」
「い、いえ。とんでもないです」

家で洗うのは凄い苦労だろうに。彼は涼しい顔で言ってのける。
やはり男性だと力が違うのだろうか。線の細い感じの人だけど。

というか、恥ずかしいので吉野様はやめていただきたい。

名前で呼ばれることにも若干の抵抗があります。

< 26 / 164 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop