リーダー・ウォーク
飼い犬と秘書と

「ああ。すみません。申し遅れました、私は秘書の井上と申します」
「吉野ともうします…」
「貴方様のことは崇央様から伺っております」
「そ、そうですか」

彼は秘書さんに何て言ってるんだろう。
やっぱりプレハブにすんでる貧乏で生意気な奴とかかな。
チワ丸の事を任される分には信頼されているようだけど、
その他はあまり良いようにとられてないだろうな。

気になるような、そこは触れないほうが自分のためのような。

「話に聞くよりも可愛らしいお嬢さんでよかった」
「え?」
「到着します」
「は、はいっ」

やっぱり、影で人に何を言ってるのですか松宮サマ?

車は駐車場にとめて井上の案内で名も知らぬ建物へ入る。
一見よく街で見るような不動産屋さんには見えなくてまるでサロンのような
オシャレでシンプルな佇まいだけど。

「いらっしゃいませ。お待ちしてました吉野様」
「……えっと」
「名刺です」
「は、はい」

中に入るとスーツ姿の男の人。名刺を渡されて慌てて受け取る。
やっぱりこれって家賃が凄く高いんじゃないか?
いくら素敵な部屋でも高いと無理なんですけど。

苦情を言いたいが秘書さんは関係がないし、お店の人ももちろんない。

これを仕組んだ犯人はここにはいない。

「お部屋にご案内しますのでどうぞ」

もうこうなったら行くしか無い、覚悟を決めて稟はその人についていく。
不安だけど秘書さんも付いてきてくれているし。
いざとなったら通帳でも見せて無理だということを分かってもらおう。


「こちらの部屋はオートロックになってます、お部屋は5階ですね」
「……」

オートロックの時点でもうすでにアウトの臭がしてきた。
見た目はそこまで新しくピカピカじゃないけれど綺麗に整えられたマンション。
鍵をあけてもらい中へはいりエレベーターで5階へ。

「吉野様へご紹介するお部屋は1LDK。ペット可。何時でも入居可能です」
「……わあ」

稟もまんが喫茶で検索はしていて値段の相場も分かっているつもり。
なので1LDKなんてアウト。予算を大幅にオーバーした。
でもせっかくなので中へ入って見学しようと玄関から廊下を渡りリビングへ。

「吉野様の職場にも近いですし、病院やコンビニ、スーパーにもすぐです」
「夢の様な場所ですね」
「風呂とトイレも別です」
「……そ、それで。あの。お部屋の賃料は」

どうせ10万くらいするんだろうな。
お金持ちさんからしたらはした金なんだろうけど。

「3万で結構だそうです」
「は?」
「それでも渋るようなら2万でもいいそうで」
「い、いえ!違います!なんで下がっちゃった!?」

こんな良い物件がそんな破格でいいの?!

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