リーダー・ウォーク

絶対10万以上はする物件。なのにそれがこんなに破格の値段。
となると。ひとつしか理由はない。

ここはワケアリのようするに事故物件というやつなんだ。

そういう場所は家賃がとても安いと聞く。部屋は素敵だし立地条件も良い、
事故物件の具合にもなるけどそれくらいなら決めていいかも。
と、稟は納得した様子で周囲を見ている。

「どうされます?他に4件ありますが、ここが一番便利ですよ」
「なるほど。それで、殺人事件ですか?それとも幽霊?」
「……は?」
「大丈夫です絶対に口外はしませんから。私、幽霊は怖くないですし」

こう見えて霊感とかゼロなんで。必ず出るという有名なスポットへ行ったって
皆は怖いとか頭が重いとか泣いても自分はさっぱり怖くなくて普通に帰ってきたから。
殺人事件だとしたらちょっと怖いけど、今あるわけじゃないし。

「ゆう…れい…は、出ないですね」
「……っ…っ」
「い、井上さん!?」

後ろで静観していた秘書さんが何故か静かに笑っている。
不動産屋さんは苦笑いで困った様子。

あれ?私何か変なこといったかな?

「どう、されます?全部見て回りますか?それとも」
「いえ。ここにします!御札を貼ればいいだけだし!」
「……は、…はあ」

こんなチャンス逃したら勿体無い。
特に寒気も感じないしここならチワ丸を預かっても大丈夫。
不思議そうな顔をしている不動産屋と、笑いをこらえている秘書さん。
鼻息荒い稟はさっそくお店に戻り、仮契約をかわした。

ホクホク顔でお店を出ると秘書さんが車を出してくるから待っていてと言われて
すっかり暗くなった道にぽつんと待っている。
といっても華やかな通りなので人もいるしお店もあって明るい。

「松宮様にはお礼を言わないと。こんないい部屋を紹介してくれて」
「そうだろう?何なら今ここで言ってくれたっていいんだぜ?」
「そうですか?じゃあお礼……え」

あれなんで松宮様ここにいる?

「ここの奴に契約決まったって連絡もらって。ちょうど近くに居たからさ」
「そうですか。あ。どうも、ありがとうございます。助かりました」
「だろ?あんたが一人前ってやつになってもっと稼げるようになったら値段も上げて」
「崇央?なに?誰その人」
「車に居ろって言わなかったか?」
「だって全然戻ってこないから、心配して」

稟と松宮の間にはいって来たのはモデルさんのような理想的な体型をいかんなく
披露しているミニワンピの美女さん。どうやらデート中だったらしい。
彼女は「寂しかったの」とさりげなくボディタッチでおそらく稟を威嚇している。

「あ、車が来たので。失礼します」
「ああ」
「行こう」

このまま居ても威嚇され続けるだけなので稟は急いで車に乗り込む。
ちゃんとお礼をいうのはトリミングの時でいいだろうし。
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