リーダー・ウォーク

「大変なんですね…」

自分は若くはないし、綺麗でもないし、今後整形をする予定もない。
お化粧や身なりは生活に余裕が出来たから少しくらいは改善する予定だが
それでもとてもじゃないけど華々しい場所へ行くとか無理だろう。

ましてや彼の隣に立つとか。

連れて行ってもらった高級レストランでさえ稟は浮いていたのに
そんな夢見るような妄想をするなんて恥ずかしい、馬鹿みたい。
こんな近い距離に松宮がいるせいだろうか。
周囲が警戒するほど怖くなくてむしろ気さくな彼に惑わされてる?

「別に。周りの連中はそれが生まれた時からそうなってるもんだと思ってるから。
おかしいとか変だとか、そういう疑問は一切持ってないよ」
「住む世界が違うと考え方も違ってきますよね」
「……」
「チワ丸ちゃんもセレブワンコとして華々しくデビューとか」
「チワ丸は俺が自由に好きに育てる。あんな連中に見せてやるか。誰にも渡さない」
「松宮様」

女関係はだらしなさそうだけど、やっぱりチワ丸に対しては素直で優しい。
何故か心のなかで「良かった」と思う自分がいる。

「でも俺にはアイツの言葉を理解するだけの知識も経験もない。
金で解決できることにも限界がある。だからあんたに頼ってる」
「私に出来る限りのお手伝いをさせていただきます」
「その為に日給奮発してんだ当然だ」
「はい」

ニコっと笑って返すと相手も少し微笑み返した。

「俺としてはあんたが良いならデートしてみたい気もするんだが」
「えぇ?」
「おい。そんな嫌な顔するなよ。だいたい何でまだ松宮様なんだ?
崇央でいいって言ってんだろ?何度も言わせるなよ」
「あ。チワ丸ちゃんがいない!どこー!」
「おい」

私はあくまでチワ丸ちゃんのお世話係。

セレブな飼い主様とあわよくばデートしようなんて思ってないし、
彼の一時の遊び相手でもない。
これからも相談を受ければ出来る限り答えようと思うし、暴走したら
時には偉そうに怒ることもある。そんなしがない貧乏トリマー。

彼を下手に意識なんてしちゃだめだ。どうせからかってるんだろうし。

「チワ丸ちゃん。疲れた?…気持ちよさそう」

アジリティで散々遊びまわったチワ丸は気持ちよさそうに滑り台の上でおねむ。
稟はそっと抱き上げてチワ丸の移動用キャリーに入れてあげた。

あまりに可愛いのでその寝顔も1枚いただく。

「俺も何だか眠くなってきた」
「建物の中に休憩できるスペースがあったじゃないですか」
「ああ。そうだっけ。じゃ、そこでちょっと横になろうかな」
「チワ丸ちゃんも連れて行ってあげてください」
「あんたは?」
「私はこの辺で適当に」
「違うな。あんたはチワ丸の世話係だろ?チワ丸の側に居てくれないと」
「…じゃあ」
「一緒に来い」
「……」

それは避けたかったんですが。聞いてくれないですよね。
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