リーダー・ウォーク

建物内にある広い空間に椅子が並んでいる休憩スペース。
本来はお客さんたちが交流する場所になるはずだが今日は貸し切り。
寂しく稟と松宮、そしてキャリーで寝ているチワ丸のみ。

だが、そこでは不服だった松宮が横になりたいと言ったので急遽違う部屋を
スタッフの人に用意してもらった。本来は調子が悪くなったお客さんやスタッフの
為のランからは少しだけ静かな仕切られた横になれる場所。

「……今日はイッパイ遊んだな」

ただ文字通り横になれるというだけで布団などはないしベッドでもない。
いわばただの畳の部屋。
寝る準備万全にされると稟としては身構えてしまうので良かったけれど、

松宮がキャリーを開けるとチワ丸は眠そうにしながらもしっぽを小刻みにふり
大好きな飼い主のもとへヨチヨチと歩み寄って彼の膝で丸くなる。

「可愛い」
「男前なんだ」
「はい」

稟は壁に背をつけて座り、松宮はチワ丸を優しく移動させて横になる。
寝たいというのは冗談かと思っていたけれど本気だったみたいだ。
最近ずっと忙しかったと言っていたから、疲れが溜まっていたようで。

それでもチワ丸の為にここまで来たのならやはり彼は優しい飼い主だ。

「……あんたも寝たら?疲れたろ」

ほんわかした気持ちになっていたらいきなり寝ろと言われて驚く。

「だ、大丈夫です。こうして座ってます」
「ンな色気ねえ場所で襲ったりしねえよ」
「あ。当たり前です」
「あんたには自分を偽らず正直で居るつもりなんだが。どうにも信頼がねえな」
「……」
「ま、他人なんてそんなもんだよな。…お休み」

別に信じてないわけじゃない。さっきの彼女の話ではかなりドン引きしたけど。
このロクデナシ男!とか最低野郎!とか心のなかで罵ったけど。
今の彼は、チワ丸の前での松宮は少なくともロクデナシじゃないし最低でもない。

そこは、今まで側で見てきた稟にはよくわかっている。
本当は真摯で真面目な所、嫌いじゃないというか。

むしろ。

「…違う違う。そうじゃない」

流されるな稟。セレブの遊び相手にはならないぞ。

「……」

松宮の静かな寝息が聞こえる。チワ丸もすっかり夢のなか。

「寝ちゃったんですか?松宮様」

軽く呼びかけてみるが返事はなし。

「ね……崇央さん」

凄く小さな声で呼んで見る。

「声が小さい」
「お、おきてた!?」
「起こしたのはそっちだろ?で。なに?俺の隣はチワ丸が居るからコッチ来る?」
「行かない。行かないから寝ないからどうぞゆっくりと休んでください」

恥ずかしくてもう穴があったら更に深く深く掘り進めてすっぽりと隠れてしまいたい。

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