リーダー・ウォーク
服従と信頼

荷物を部屋まで一緒に運んでもらい部屋には上がらずに玄関で井上は帰る。
お茶でも、と言いたい所だが茶っぱもなければ来客用カップもない状況。
部屋を整えてからまた改めて誘おうと決めた。

「さて。君のご主人は何時お迎えに来るのかな?」

残ったのは稟とたくさんの買い物した荷物とそしてチワ丸。寂しそうにして
玄関を何度もチラチラと見ているのはやはり飼い主である彼が居ないからだろう。

時刻は夜9時。

明日のことも考えてシャワーを浴びて寝る準備を整える。チワ丸にはご飯とトイレと
オモチャがあるけれどベッドがないのでクッションとブランケットを即席の布団に
してあげようと思う。


「ごめんなチワ丸。待ったよな?寂しかったろ?ごめんな…ごめんっ」

それから1時間後、やっと松宮が部屋のインターフォンを鳴らしてあっという間に
部屋にはいって来て、一目散に稟の布団の上に寝ていたチワ丸を抱っこ。
愛しそうに撫で回していた。

「すみません。お布団、やっぱり即席のじゃ寝てくれなくって」
「いいんだ」
「良かったねチワ丸ちゃん」

待ちに待った松宮の登場によほど嬉しかったのか何時もは見せないような
大暴れしてしっぽを振り回すチワ丸。それはもうネジが2,3本抜けてしまったくらいに
尋常でない動き。おしっこも少ししてしまう。

「……あんたの言うとおりだ」
「え?」
「俺、むかしっからひとりで寂しいって気持ちがよく分からなくてさ。無理に人に
合わせるくらいなら1人のがマシって思ってた」
「……」
「でもこいつは違う。ひとりは寂しいって顔をする。俺に会いたかったって犬のくせに
悲しそうになきやがる。俺がこいつを狭い世界に囲いすぎたんだ」
「松宮様」
「立派な男になるように…留守番が出来るように今からでも出来るかな」

そう言って不安そうな顔で稟を見つめる。

「出来ます。チワ丸ちゃんはまだ若いんですから」
「……そうか。ありがとう、あんたが居てくれてよかったよ」

その返事に満足気に微笑み返す松宮。そして、チワ丸を持ってきたキャリーに
スポッと入れるとそのそばで座っていた稟の前にやってきて。

「え?…え…っ!?」

ぎゅっと稟を抱きしめた。

「話は井上から聞いた。ごめん。…ありがとう」
「……そ、そんな」

チワ丸のこと以外の人間性については否定してませんけど、いいですか?

「あんたが嫌でなかったら、…この先、……稟って呼んでいい?」
「い、え、い、……いですけど」

確かに今まで名前では呼ばれてないけど、何で急にそんな事?

自分は崇央と呼べとうるさかったのに。

「期待とか勘違いされるのが嫌であんまり女を名前で呼ぶってしないんだけど」
「……」
「遊ぼうなんて思ってない。ただ、あんたが必要だから手放したくないだけ」
「世話係ですしね」
「そう。チワ丸と、俺の世話係」
「追加された」
「日給も弾んでやるし、欲しいものはなんだって買うし、行きたい所もつれていく」
「……」
「だから。…今日はここに泊めてくれよ。……な、いいだろ?稟」

逃げられないように抱きしめて耳元で囁いてくるのは遊びじゃなかったら

何なんですか?

チワ丸が不思議そうな顔でキャリーから顔を覗かせてコッチを見ている。
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