リーダー・ウォーク

がっつりと抱きしめられて10分ほどもがいて問答をしていたけれど
はいと言うまで稟を離す気が無さそうだったので色んな意味で窒息する前に
今日だけ、彼らを泊めることは了承した。せざるを得なかった。

けれど。

「着替えないです」
「1日くらいどうってことない」
「布団1組だけだし」
「いいだろ別に」

袋から買ったばかりの布団も出してテンションが上った所だったのに。
ピンクの可愛いカバーで統一して女の子らしくて嬉しかったのに。
スーツの上着とネクタイをハンガーにかけて風呂へ行くらしい松宮。

チワ丸は彼が動く度に足もとに擦り寄っていって構ってほしそう。

「…でも」
「先寝てていいよ。適当に風呂入って寝るから」
「……」

こんな状況下で寝ろって言われて眠れたら苦労はしません。
布団は一組。そしてここに男性用のパジャマなんてものはない。
スーツで寝るってことはまずないと思われるので。

もしかして全裸で出てくる?

え、

まって?

「チワ丸ちゃん。貴方も全裸だけど、それとこれはまた別問題なの」

稟はいそいそとリビングからまだ手付かずの部屋へ布団を移動させる。
最初から何も見なければいいわけだ。さっさと部屋に閉じこもって寝てしまえば。
松宮はチワ丸さえ居ればブランケットをわけあってたとえ全裸でも寝るだろう。

私は悪く無い、私は冷たくない。

嫁入り前の娘の部屋で裸で一緒の布団に寝ようとする男が悪い。

布団を敷いて潜り込んでそんな言い訳を延々と頭のなかで叫んでいた。

「なあ。何やってんの?」
「布団は敷いてあるでしょ!そこで寝てください!」

20分後、松宮が風呂から出てリビングに戻ると布団はそのままで
チワ丸がその上に寝ていて、でも稟が居なくて。
トイレでも無さそうなので部屋のノックをしたらそんな声が帰ってきた。

「疲れてんだろ。俺も疲れてる、チワ丸もいるんだから安心しろって」
「……」
「さもないとドア蹴り飛ばして布団に投げ込むぞ」
「物騒なことはやめてください」
「さっさと出てこないのが悪い。ほら、来い。寝る」
「……はい」

自分だけ布団で彼を全裸で放置とか夢見が悪すぎるので布団を譲った稟。
せっかく移住したのにその日にドアをぶち破られたら嫌なので結局外へ出る。
松宮は全裸では無かったがシャツに見てないけれど下はおそらくパンツという
もう少し何とかなりませんでしたかといいたくなる格好。

だからって稟のスカートやパンツをはかれてもそれはそれで困るけど。

「チワ丸寝るぞ。定位置につけ」
「……」
「あんたもほら。もっとこっち」

一人用のシンプルな布団に男女二人で寝るってどうなんだろう。
まだ少し肌寒いから何もなしというのも風邪をひきそうだし。

そもそも彼氏でも彼女でも何でもないんですけど?

手招きされて恐る恐る近づいたらぐいっと手を引かれ布団の中に。

「勘違いしてほしくない割にこんなことするんですね」
「……あんたも少しは意識してる?」

松宮に背を向けて腕を組んで身を縮める稟。
何かされようものなら足で蹴って逃げて部屋にこもる覚悟。

「異性と一緒に寝るとか。幼なじみくらいで…」
「その幼なじみが元カレだって話じゃねえよな」
「ち、違いますよ」
「ふぅん?ま田舎野郎に負ける気はしねえけど?」
「……すごい自信だ」

というかこの人は一体何と張り合ってるの?

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