リーダー・ウォーク

「……」

感情的になっていたせいもあって俯いて涙ぐむ稟。

「退屈しのぎのオモチャなんて腐るほど持ってるさ。けどあんたはそうじゃない。
そんなふうに接したつもりもない。それとも新しいオモチャだったと思うか?」
「……」
「俺がこんな真面目に接しても、駄目だって?」
「……」
「何で黙るんだよ。あれか?お前も俺にマトモな感情なんて無いって思ってるのか?
人間として出来損ないだって、生まれてこなきゃ良かったってそういいたいのか」
「そんな事、誰が言ったの?」
「周りの連中は皆思ってるさ。どうせ、俺は」
「崇央さんらしくない。そんな周りを気にするなんて」
「は?」
「気にしないで我道を行くのが貴方でしょ?」

人のプライベートガン無視で予定を詰め込んでくる我儘王子。
だけど、意地悪とか悪意はなくて純粋に嬉しそうにしていて大事な家族である
チワ丸の為にしていたことで、それをわかっていたから稟は笑顔で従った。

まあ、実際なんの予定が無かったという悲しい事実もあったけれども。

「……」
「私は、私のやりたい道があるから無理してでも上京してきましたから。
これからもそれは貫きます。……チワ丸ちゃんと、崇央さんの、側で」
「…稟」
「そ、そのかわり日給弾んでくださいよ?なにせ犬と人の世話をするわけで」
「わかった。建物付きの土地を用意してやるから、そこに店を出せ」
「い、いえ。そこまでは!まだ早いから!」
「松宮家が全面的にバックアップしてやる、スポンサーになってやるよ」
「要らない!そんなプレッシャー!」

だからまだ私は駆け出しのトリマーなんだってば!
先輩のカットチェックが必要なペーペーなんです!
何とかベランダから脱出して部屋に戻るとチワ丸が寂しそうに松宮にくっつく。

「飯食いてえな。あの不味そうなピザ以外」
「冷凍うどんならある」
「なにそれ文明人が食っていいモノなの?縄文人専用フードじゃないの」
「……松宮さんなんか嫌いだ」
「嫌いって言うな。あと松宮さんとも呼ぶな」
「崇央さんなんか好きじゃない」
「否定的な事を言うな。絶対言うな。チワ丸けしかけるぞ」
「チワ丸ちゃんを攻撃的に躾ちゃいけません。…じゃあ、ご飯食べに行きます?」
「ここは稟の手料理とかねえのか」
「よしうどんだ!冷凍うどんだ!冷凍庫ついてるもんね!」
「なあ、あんた、アラサーでその鈍感さでその生活力の低さ、俺でもヤバイと思うぜ」
「言わないでっ」

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