リーダー・ウォーク

ずいずいとパンツを握ったまま追いつめられていつの間にかベランダに2人。
そう広くないスペースなのだからあっという間に背中は手すりにくっついて、
これ以上後ろに行ったら私は飛び降り自殺します。
松宮は怖い顔のまま稟を追い詰め逃げられないように手で柵を作る。

「早くしろ」
「せめて中で」
「今すぐここでしろ」
「外だし」
「関係ねえ」

すっかり外は暗いけれど、お隣さんが出てきたらどうする?
道行く人がふと見上げたらどうするの?ちらっと室内をみたら締め切られた
ガラス戸から心配そうな顔でこっちを見つめるチワ丸。助けてチワちゃん!

稟は必死にテレパシーを送ってみるが届くはずもなく。

「……したら、もう、怒らないですよね」
「今はな」
「……」

依然として睨んでくる松宮。

何でこうなる。

私が何をしたっていうの。

「はやく」
「……は、はい」

そっと手を彼の胸に当てて、身長差があるからちょっと背伸びして

軽く、触れるくらいのキスを唇にする。

「……。ガキのキスだな」
「…すいません」
「あんたらしいけど。…今回はこれで許してやるけど、また何かやらかしたら。
次はちゃんと大人のキスをしろ。出来ないなら出来るまでやらせるからな」
「……あの」
「なに」
「そもそも、…何で、…怒ってるんですか?私、貴方の、なに?」

チワ丸の世話係じゃなくて、もしかして遊び道具なの?
あの派手な女の人みたいな?名前すらきちんと覚えられてないような?
何人居るか知らないがあんな人と一緒なの?だからこんな良くしてくれるの?

オモチャが自分の意に反したから怒ってるの?そんな金持ちの我儘で私はキスした?

「わかるだろ」
「だったら……、オモチャにするならもっと別の人にして!私そんな暇ないです!」

名前を呼んでもらえて、優しくしてくれて、頼られてて。

ちょっとでも気に入られたのかなとか思って淡い期待を抱いた自分が馬鹿みたいだ。
結局、オモチャだったってこと?

やっぱり私は期待なんかしちゃだめなんだ。こうなるんだ、いつだってそう。


「はあ?何時俺がオモチャにした?そんなのした事ねえだろ」
「だって」
「俺は特殊な趣向は持ってねえんだこんな貧相な体欲しがるか」
「……う」
「俺と一緒にいる時だってろくな化粧してこねえしいっつも犬くせえし」
「……」
「そんなオモチャ誰が欲しがる」

それは、そうだけど。そんなはっきり言わなくたって。

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