リーダー・ウォーク
所有権は譲りません

何だかよくわからないうちに私は彼の私物になっているようだ。
チワ丸ちゃんと同じような感じだろうか?いや、あれは家族だけど。
とにかく、勝手な行動を取ると非常にお怒りになる。

キスをさせたのは怒りに任せた行動なのか他に意味があるのかは
聞いてみたいような、怖いような、複雑なので稟はなにも聞いてない。

「うまい」
「でしょ?」
「……冷凍した麺に市販の粉かけただけなのに」
「冷凍うどんは美味しいのです」

どうしても何か作れと言うのでうどんを作って小さいテーブルに置く。
その瞬間の、まるで汚いものでも見るような酷い視線は忘れはしない。
だけど空腹には勝てずに一口含んで、松宮は驚いた顔をした。
よほど美味しかったのだろう。彼が想像していたよりもずっと。

どや顔の稟。不満そうな、けれど順調に食べ進める松宮。

「ま、まあ。…腹減ってるしな」
「素直に認めたらいいのに」
「……」

無言でズルズルと麺をすする松宮。チワ丸はその側に寝ている。
当然ながらチワ丸はすでにご飯を終えた。

「冷蔵庫、良かったんですか?買ってもらっちゃって。ビール冷やすだけのために」
「あんたも使うだろ?現にこの麺を冷凍庫に入れてたんだしさ」
「それはそうですけど」
「後で返せなんて言いやしねえよ。まあ、あれはボーナスみたいなもんだ」
「いいですね。ボーナス。…はあ、昔はそれが唯一の楽しみだったなぁ」
「昔。ああ、OLしてたんだっけか。なんかあんまりイメージし難い」
「田舎のなんでなことない会社でした。社員も5人だし。社長は父の知り合いだったし」
「田舎じゃ選択肢が少ないだろうしな」
「ええ、まあ」

別に不満なく短大を卒業して5年ほど働いていたのだけど。
それが今ではこうして都会でまったく違う仕事をしているという不思議。
まだ完全な自立してきちんと生活していけるまでにはなっていないけれど。

「きちんとやりたいことがあって頑張ってるのはいい事だと思うよ」
「え?」
「何がしたいかも分からずに、ただ死ぬまでの長い時間をどう暇つぶしをするか。
そればっかり考えてるような人間からしたらさ、
きっとあんたの生き方は羨ましいと映るだろうって。…なんとなく、思っただけ」
「……」
「なに?俺の顔そんな見つめて面白い?」
「……、いえ。あ。お代わりならすぐ準備出来ますから言ってくださいね」
「なんていうかさ。味はうまいんだけど、やっぱ何かしらの具は欲しいよな?」
「……」
「何でそんな拗んだよ」
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