リーダー・ウォーク

『こんなオジサンでは楽しめないかもしれないけど』
「い、いえ。…あの、…その、どうしてですか?突然そんな事」
『君ときちんと話が出来ていないから、話がしたいと思っていたんだ。
やっと時間も取れたことだし、逃すとまた書類の山に埋もれる事になる』
「お忙しいみたいですね」
『だからこそ、癒やしが欲しいと思って。と、いうのはセクハラになってしまうかな。
要するに家で食事でもどうかと思ったんだ。恭次や崇央も交えてね』
「お家ですか」
『そう。どうだろう?』
「……でも、私なんかが行っていいのか」

周囲からの情報で想像するしかできないが松宮家が金持ちなのは理解している。
だからどうせ見上げるようなお城みたいな家に住んでいるのだろう。そんな所へ
こんな特に何があるわけでもないただお犬様の世話をしているだけのトリマーが
気軽に行っていいモノか。

あと、仲が良くない三兄弟揃ったら阿鼻叫喚の地獄絵図ってやつじゃないんですか?

そこへ私を放り込むとか実は上総さんはドSなんですか?餌ですか私?

『駄目かな』
「……う。うーん」

どうしよう。そんな困った声を出されると、NOとは言いづらい。

「かせ」
「あ」

代わりにいつの間にか真後ろに来ていたらしい崇央が携帯を奪う。

「こんな遅い時間に長々とかけてくんじゃねえよ。こっちは忙しいんだ。じゃあな」
「あ。…あー!」

そしてあっさり携帯を切ってぽいっと稟に投げた。

「煩い。困ってるみたいだったから解決してやったんだろ」
「まだ返事してなかったのにっ」
「何の返事?デートとか聞こえたけど……違うよな?」

あ。やっぱりあれ聞こえてたんだ。黙ってるから聞こえてないと思ったけど。
変な声だしちゃったしやっぱりバレるよね。そして不満そうな顔をしている。

「今のは」
「チワ丸。稟を見張ってろ。いいか。電話にふれさせるな。…俺は風呂へ行く」
「ち、ちょっと!あ!チワ丸ちゃん!携帯かじっちゃ駄目!」

松宮はそう言ってあの黒いパンツを手に風呂へ。
チワ丸は言いつけを守っているのか、ただオモチャだと思っているのか
稟の携帯に齧りついて遊んでいる。慌ててそれを取ろうとしても怒って唸る。

稟が何とかチワ丸から携帯を奪い返すのに5分ほど時間を要した。

慌てて電話をかけ直してみたけれど、留守電。

忙しいのだろうか、流石に怒ってはないとおもうけれど。

「吉野稟です。先程はすみませんでした。…ご自宅に伺う件ですが、その。
す、少しだけなら。…おじゃまさせて頂きます。休みの日などもありますので、
またご連絡をお待ちしています。失礼します」

そう伝言を残して置いた。

チワ丸は携帯の代わりに渡されたガムに夢中。
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