リーダー・ウォーク

「というかさらっと私の防犯用パンツ持ってった…」

この前チワ丸の用品を運ぶついでに自分の物も幾つか運んできたから
前回のような下着姿で寝るということにはならないけれど。下着だって多分、
その中に入っていたように思うのに。わざわざあの黒トランクスを持ってった。

ほんとに勝手に人の物を弄るんだから。携帯もパンツも、その他諸々も。


「やっぱ風呂あがりはビールがいいよな。もっと冷えてるのがいいけど」

しばらくして松宮が風呂からあがって勝手に冷蔵庫からビールを取り出す。
実に美味しそうに飲んでいるけれど。

「私ビール飲めないです」

差し出された缶をそっと返す稟。

「マジかよ。一緒に飲もうと思って買ってきたのに。何ならいいわけ?梅酒?サワー?」
「焼酎かな。お湯割りで梅を入れるといいですよね」
「……まじかよ」
「昔は日本酒だったけど。でも、最近はもっぱら焼酎ですね。高いから買わないけど」
「あそう。…へえ。…じゃあ、次は焼酎買ってくるわ」
「芋がいいです」
「ああ。うん。わかった。芋ね。芋」

若干引いている顔をしていたが稟は無視。

「ビールのんじゃったら車運転できませんね」
「別にする予定ないけど?」
「……」

やっぱり泊まっていくつもりなんだ。こっちは何も言ってないのに。
上総は迷惑ならはっきり言ってやれといっていたけれど。
はっきり言ったら絶対拗ねるし。怒るし。
何よりチワ丸を抱えて帰るとか言い出しても車の運転は不可能。

やっぱりまた一緒に寝るのかな。布団は入ってなかったもんな。

「どうしても帰れっていうなら、…帰る、けど」
「……」
「……、帰る、…方が、いい。か」

そんな寂しそうな声で言わないでください。

「ボーナス分くらいの働きはするつもりです」
「…そう」

あ。ちょっと嬉しそうだ。はにかんでる顔が可愛い。

とかなにを考えている私。そんな場合じゃないでしょ。


「することもねえし、寝るわ。お先」

松宮はあっという間に1缶を飲み干し事前に稟が設置していた布団の上へ。
何やら携帯を弄って、そのまま横になる。それに合わせるようにチワ丸が
彼のすぐとなりに寝転んでナデナデしてもらって気持ちよさそう。
稟はその光景を眺めつつ、自分もシャワーを浴びて眠る準備を整える。

リビングに戻ってくると寝息が聴こえて来た。

上総から連絡が来ているかもしれないと携帯を確認する。何もなし。

「……でーとなぁ」

2人きりでどこか行くとかでなくて、ただもう少し話がしたい。
くらいのニュアンス?でいいと思う。弟たちも一緒だし。

あ、そうだ。まだこのことを彼には言ってないんだ。

「来たんならさっさと布団入って来いよ。電気も消して」
「…あの。私」
「いいから」
「…はい」
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