リーダー・ウォーク

薄っぺらいひとり用の布団の中。
今回も稟は松宮に背を向けて何時でも逃げられるようにしている。
お金持ちの坊ちゃまの都合のいいオモチャ、ではないようだけど。

だから何なんだって話になる。

都会へ出てきて何やってるんだろう?私。

「なあ」
「…はい」

ぼんやりと考えていた所へいきなり後ろから声がするからビクっと震える。
彼もまだ起きているのだろうか。
さっきまでぐっすり寝ていたような気がしたけど。

「一度、さ。良かったらでいいんだけど。家に、来ないか」
「家ですか」
「面白いもんとか特に何もないけど。ああ、そうだ。チワ丸の為のクローゼット
作ろうと思ってるんだけど、あんたにもアドバイスとか欲しい。かなと、かさ」
「きっとチワ丸ちゃんの物で溢れてるんでしょうね。あったほうがいいかも」
「だろ?…だからさ」
「ちょうどご自宅に伺おうと思ってたので。是非見させて頂きます」
「え?俺、前に誘ったっけ?」
「いえ。上総さんから誘ってもらって」
「あの、オッサン?ああ、さっきの電話って。そういう」

ふぅん、と不愉快そうな声を出し。松宮の吐息が稟の耳元でする。
びっくりして体を動かそうとするがそれも出来ない。
松宮にぎゅっと後ろから抱きしめてきたからだ。

「4人で食事で持って言われただけです」
「その後でふたりきりにでもなって、ナニかするわけ?」
「そこまでは聞いてませんけど」
「言われたらすんの?」
「よく分かりません。時間が来たら帰ります。忙しいみたいですし、
そんなホイホイなんでも言うことを聞くと思わないでください」
「……」
「言っときますけど誰のオモチャにもなる気はありませんから。
私は私のしたいことをする。そのためにここにいるんですから」

私は私のための人生を歩むと決めたのだから。なんて、かっこ良く言っても
今まさに松宮の言うままに一緒に寝ている時点で説得力ないけど。

「ああ、したらいい。俺もしたいこと、するから」
「……」

さらに優しく、しっかりと稟を抱きしめて耳元でわざとらしくそんな事を囁く。
こそばゆくて我慢したいのについピクピク体が反応してしまって恥ずかしい稟。
それを笑っている声が耳元でしているのも余計にそんな気持ちを助長させる。

「ほんと、……面白いお嬢さんだ」
「……」

かなりご機嫌なのとほんのりとするお酒の香り。いつの間にか、
頑なに身を縮め彼に背を向けいた稟をいとも簡単に正面を向かせ。

「酒が入ってるんだ。…ちょっとくらいなら、じゃれついてもイイだろ?」
「あの、ちょっと、困」

貴方にキスされるのと、チワ丸に顔をぺろぺろされるのとは違うんです。

稟なりに必死の抵抗を試みる。

「酔っぱらい。俺は酔っぱらい。きっと朝には何も覚えてねえ酔っぱらい」
「私は覚えてるじゃないですかっ…ちょ、ちょっと!そういうのはお仕事に入ってないですっ」
「キスくらいサービスでしてくれよ」
「セクハラです」
「あ?なに?聞こえねえ」
「こんな近くで聞こえないわけないでしょっ」
「それもそうだな。あははは」

流されないぞ。絶対流されないから!

「……や…だっ」
「耳、弱いんだな。甘噛しただけでそんな声だして」
「……ばか」

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