リーダー・ウォーク

予定は明後日。まだ1日余裕があるということ。
服はなんとかなったと思うが後はサロンに行こうかなとか化粧品を
買い足そうかとか、香水はいるかなとか。仕事をしながら考えて、
ちょっとミスって店長に怒られてみたり。先輩に助けてもらったりしつつ。

あっという間に1日は終わってしまい、約束の日が来た。



「あれ。吉野さん、もしかしてこれからデート?」
「え?」
「だって。何時もより気合入ってるから」

その日をなんとか無事に終えて、稟は着替えをしてメイクもチェックしていたら
先輩が声をかけてきた。確かに普段からこんなことをやっていれば違和感のない
普通の光景なのだろうけど、明らかに何時もと違うのだから声もかけるか。
先輩たちはきちんとアフターに予定があってもなくても服装やメイクを直して帰る。
身なりに気をつけてないしメイクだって取れたら取れたなりで帰るのが稟。

「デートじゃないんです」
「あ。もしかして田舎から友達が来てるとか?」
「ま、まあ。そんな感じで」
「なるほど。楽しんできてね」
「はい」

すいません、嘘ついて。でも、上手く説明できる気がしなかったんです。
松宮家の人に誘われてその家にお呼ばれに行くなんて誰が想像できる?
生体価格8万円のチワワを買って毎月1回のシャンプーに来るだけの人なのに。

自分だってこれが何なのかはわかってないんだから、他人なんてもっと意味不明だ。


「待たせた?悪い」
「いえ。大丈夫です」

待ち合わせ場所はお店の裏のスタッフ用駐車場。予定より10分ほど遅れて松宮登場。
この間に先輩や店長などがこっちに出てこないか不安でハラハラした。
足早に車に乗り込んでお店から離れる。

「……」
「……」

音楽もラジオもない車内はとにかく静か。
松宮が声をかけなければ稟も何も言わない。何を言おうか分からなくて。
稟は今下手に口を開いたら妙なことを口走りそうになる気がするし。

「何か言えば?」
「何を?」
「何かさ」
「……、……お腹すいた」
「……俺も」

会話、以上。

「……あ。そうだ。チワ丸ちゃんのクローゼットってどうするんですか?買うの?増設?」
「それもまだ決めてない。買って設置するスペースはあるけど。いっそ部屋を改造してもいいよな」
「わんちゃんと暮らしやすい部屋づくりとか今はありますよね」
「へえ。そういうのいいよな。チワ丸も俺も同じように快適なのは」
「人間目線とワンちゃん目線は違いますからね」
「なるほどな。たしかにそうだ。知り合いにあたってみるか」
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