リーダー・ウォーク

そんな会話をしているうちに松宮家へ到着したようで車が止まる。
木々が生い茂りまだ全景は見えていないけれど、とりあえず目の前に巨大な車庫。
松宮が何やら操作をしたら勝手にシャッターが上がっていってそこへ車をとめて。

「……ひ、…ひろ、い」

稟が車を下りると既に車が3台とまっていたがそれでもまだスペースがある。
ここだけでもう既に稟の部屋など消し飛ぶ広さ。

「そっちは何もないから」

一体何台ここにとめられるんだろう。
松宮の後ろを追いかけて車庫から出て、そこから少し歩いて。

「…これ、玄関ですか?」
「ん?いや。これ、門」
「……門」

そっか。門か。門ってなんだっけ?

そんな普通の一軒家に住んでいるとは流石に思ってなかったけれど。
まず玄関までたどり着くのにどれくらいかかるのだろうか、不安になってきた。
これは松宮とはぐれたらこの家で行方不明になって死ぬんじゃないか?

巨大な門をあけて入り、左右に整備された日本庭園と石畳の道をまっすぐに歩き続け。
やっとのことで到着した玄関。
雑誌なんかで見るような超のつく高級旅館に来たような気分。でもちがう人様のお家。
本当に松宮が連れて来てくれてよかったのかもしれない。この威圧感は。

何処までも続く長い廊下。高そうな掛け軸、壊したら借金地獄に落ちそうな壺。
年季はかなりはいっていそうな家屋だけど、チリひとつ無いピカピカ具合。

「おかえりなさいませ崇央様」

どこからか静かに現れてお出迎えする和服の女性はお手伝いさんだろうか。

「上の連中はもういるのか」
「既にご帰宅なさっておいでです、お食事の準備もすぐにできます」
「ん。…あ、なあ。稟」
「はい」
「何か食いたいものとか好きなもんあったら言っとけばいい、腹減ってんだろ」
「そ、そんな。私は大丈夫ですから。好き嫌いないし」

今ここで何が食べたいとか言えるわけないでしょ?

どうせゴチソウが出てくるんだろうし。

「そうか?ま。いいわ。時間あるみたいだし、部屋行こうか」
「は、はい」

お手伝いさんは静かに消えて、松宮の案内で廊下を歩く。
こんな緊張するお呼ばれは初めてだ。
やっぱり服を新調してきてよかった、メイクももう少し派手でも良かったかも。
犬の匂いは香水を少し後で付けたけどチワ丸もいるし大丈夫だろう。

「ここがチワ丸の部屋」
「…私の部屋より広い」
「当たり前だろ?チワ丸だぞ?」
「……ですよね」

ドアを開けるとそこは松宮の部屋ではなくて文字通りチワ丸の部屋。
軽く見ても10畳はあるしオモチャもクッションもベッドも食器も
何もかもが洗練された高級品。着替えなども豊富に置いてある。

「この戸の向こうが俺の部屋」
「へえお洒落」

ガラス戸で仕切られて何時でもすぐに会いにいけるわけだ。
説明を受けている最中だったが寝ていたチワ丸が松宮の匂いを察知。
いつもの様に大喜びでしっぽを振り乱し彼に抱きついた。
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