リーダー・ウォーク
妥協と協力と

「帰ったぞチワ丸。元気にしてたみたいだな。よし。いいこだ」

すぐさま抱き上げて頬をすりすり。チワ丸と触れ合うにあたって、
高そうなスーツ姿であることはあまり彼には関係がないようだ。
それは今に始まったことではないから稟も何も言わないけれど。

「あ。可愛い!チワ丸ちゃんの服可愛い!」

何気なしにチワ丸の用品がまとめられている箱を覗き込むと可愛い服。

「つい勢いで買ってみたんだけどさ。コイツすぐデカくなりやがって」
「ああ。なるほど」
「捨てようとか思ったけど。思い出があって何か捨てづらくてさ」
「いいじゃないですか。場所はあるんですし、記念に置いておいて」
「その為にもやっぱ専用のクローゼット欲しいよな」
「ですね」

きっとチワ丸を迎え入れてから勢いで色んなものを買い込んだのだろう。
ご飯だって色々と工夫していたし、おやつもカロリーや産地を気にしていたし。
そんな思い出の詰まったものを捨てづらいのは稟にもよく分かる。

「ちょっと着替えてくるから、ここで待ってて。それとも、一緒に部屋来る?」
「チワ丸ちゃん!おいで!抱っこさせて!今すぐに!」
「……あっそ」

てっきりチワ丸のスペースは松宮の部屋の中にあると思っていたから離れているのは
ラッキーだった。絶対入るもんか。何をされるかわかったものじゃないんだから。
ちょっとだけ寂しそうな顔をしながらもガラス戸をあけて中へ入っていく松宮。

「…チワ丸ちゃん。お留守番ちゃんと出来たね、えらいね」

稟に抱っこされて嬉しそうにしているチワ丸。
ずっしりとした重さも体格のしっかり具合もすっかり大人。あんな小さくて軽かったのに。
つい最近の事のように思っていたが結構な月日が流れていたのだと今更感じた。
松宮とももうずっと前からの知り合いみたいになっているし。

チワ丸を抱っこしつつ適当な場所に座って待つ。
松宮が着替えを済ませ出てくるとまるで見ていたかのようにドアがノックされて
先ほどのお手伝いさんが「夕飯の準備が整いました」と呼びに来た。

「ああ、いいんだ。チワ丸もつれてく。飯は何時も一緒に食ってるんだ」
「一緒に」
「人間が先のほうが良いってのは知ってるんだけどさ。…1人で食わせるの可哀想だろ」
「それは、そうですね」
「時間が不規則だったり外で飲んで来たりって場合は飯を作ってもらってるけど。
そういう時って決まって食べなかったり残したりするんだ。コイツ、意外に繊細でさ」

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