リーダー・ウォーク

「そうなんですか。じゃあ、外にいても心配ですよね」
「今はこんだけ立派な体してるからいいけどさ。最初はほんと心配だった」

あのモデルさんとデートをしていてもその調子では確かに何とかしなさいよと
文句を言うのも分からないでもない。
ただ、それを稟に言われてもどうしようもないけれど。

「ここですか?」
「ああ。……なあ、稟」
「はい」

巨大なドアの前、どうやらこの奥に兄たちとゴチソウがあるようだ。
はしたないと思いつつ、お腹も空いているし期待している稟。

「空気、すげえ悪いと思うけど気にするなよ。あのオッサンの目的は知らないけど、
あんたは俺と話してればいいから。それでさ、後でちゃんと相談にのってくれよ」
「…で、でも」

最初にご招待してくれたのは上総。いくら緊張していても何かしら話はすべきだろう。
あと、今更だけど手土産をド忘れている。身なりに気遣うのに必死で。
お呼ばれするのに饅頭のひとつも持ってきていない、これは不味いのではないか。
上総相手ならもしかしたら笑ってごまかせるかもしれないけど。

「稟」
「行きましょう。チワ丸ちゃんもお腹すいてます」

とにかく中へ入りましょう、稟に言われてしぶしぶドアをあける。
まるで晩餐会でもあるのかと思うような広いスペースにテーブルにゴチソウ。
外観や部屋は和風なのに食事をする場所は洋風なのはもしかしたらここで
お客さんをたくさんよんでパーティでもするのだろうか?

「こんばんは。待ってたよ、稟ちゃん」
「こんばんは。あの、本日は呼んで頂いて」
「ああ、いいよそんな堅苦しいのは。好きな所へ座っていいからね。
特に誰が何処とは決まっていないんだ、何時もバラバラに食べるから」

上総はご機嫌に笑みを浮かべ稟を迎えてくれる。
そのそばには次男である恭次がちょっと不満そうに無言で会釈だけしている。
稟は適当に隅っこに座ろうかと思っていたのだが、松宮にここに座れと指示をされた。
チワ丸は床に放すとすぐに少し離れた場所にある彼専用のご飯のある台へ向かった。

「何か酒でも…、あ。焼酎だっけか」
「い、いいです。お水で」
「欲しいものがあればなんでも言ってください、ゲストをおもてなししないとね」
「十分していただいてますから」

こんな豪邸の夕食時に焼酎持って来いとか言えるわけ無いでしょう。
結局ワインをグラスにそそがれて一口飲む。
座る場所が本当に適当で各自好きな場所に適当に座っているみたい。
とりあえずお隣だとか向かい合って食事する気は皆無、と。

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