リーダー・ウォーク

お忙しいであろう彼氏様に迎えに来て頂いて、車にのせてもらって。
後部座席にはもちろん専用のキャリーにはいっているお犬様が居る。
だけどまったく会話がなく、BGMもなく。明らかに異質。
お酒の力か何時もならこの微妙な空気をなんとかしようと思うのだろうけど。

「まさか飲み会に来るっていうイケメンがあのメガネ野郎ってオチじゃねえよな」

いい気分で特に何も言わずぼんやり座っていたら、
痺れをきらせたらしい彼から問いかけられる。視線はまっすぐ前のまま。

「だったら面白かったですけどね」
「いいや?何一つ面白い所なんかないな」
「……あれ?不機嫌になってます?」
「白々しい。今気づいた訳じゃないんだろう」

やっぱりそうですよね、もうずっと不機嫌ですものね。
でも別に何をしたって訳じゃないから何をどう言えばいいやらで。

「……」
「何で黙るんだ。何か言えよ」
「じゃあ。崇央さん何で怒ってるんですか?連絡しろって言ったの自分なのに」
「別にあんたを迎えに行くことが不満なんじゃない。…あいつが、あの糞メガネが」
「恭次さん?」
「そうだよ。…いちいち名前だすな。あいつと会う約束でもしてたとか?」
「いえ。偶然会ったんですよ。恭次さんもワンちゃん好きなのかな」
「そんなわけないだろ、アイツが好きなのは自分の家と会社だけだから」
「……」
「あーあ。嫌なもんみた。口直しに何か美味いもんでも食いたいな。あんたどうする」
「美味いもの?」
「どうせ適当なもんしか食ってないんだろ。あるいは酒がメインで飯は食ってない、か?」
「鋭い」
「どうせそんな酔っ払ってりゃ勉強は出来ないんだ。俺に付き合って飯な。いいだろ」
「はい。…チワ丸ちゃんのご飯は?」
「先に食わしてきた。おやつのジャーキーを後でやる」
「なるほど」

お酒とスルメでしみじみ飲んでいたので今まさにお腹がすいてきた。
家に帰ってうどんを食べるのもいいかと思っていたけれど、
美味しいもの、と言われるとやはり心が踊るもので。
松宮が連れて行ってくれるのだからきっと本当に美味しいお店なのだろうし。

「この前ちょっと話したろ。美味いピザを出すホテルって」
「聞きました。ここ?」
「ああ。ここ。家の系列のホテルだから融通も利いて使い勝手がいい、チワ丸も預かってもらえる」
「よかった」
「一緒にってのは流石に無理だから、ちょっと寂しい思いをさせるけどな」
「テイクアウト出来ませんか?」
「甘やかすのは良くないんだろ。チワ丸はもう立派な男だ。…行こう、歩けるか」
「大丈夫ですよ」

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