リーダー・ウォーク

もう酒が抜けたと思ったが若干おぼつかない足元。
それでも歩こうとしたら松宮が何も言わず手を差し伸べて支えてくれた。
連れて来てもらったホテルの玄関がキラキラと眩しくてやたら目が痛い。
目的地は最上階にあるイタリアンレストランだそうで、それはもう夢が膨らむ。

石窯焼きピッツァとかそう食べられるものじゃない。
なんならワインとかつけてくれたらもっと最高。

私だんだん図々しくなっている気がする。


松宮が受付にチワ丸の入っているキャリーを預けている間、
あまりに目がしょぼしょぼするので窓からの景色を眺めていた。
行き交う人はそれぞれ国籍も違うけれど、皆共通して身なりがいい。
何も聞かなかったけれど、名のしれた一流のホテルなのだろう。

「あら」

ちょっと場違いかもしれない、と思い始めた所で見たことある顔を発見。
気づかれないように顔を隠したのにバッチリとバレたようで近づく足音。

「……」
「誰かと思ったら。世話係さんじゃない」

何でこんな所に居るんですかこの人は。華やかなドレスを着て派手なメイク、
いつにも増してお人形さんのような美人具合。どうせそんな興味もないくせに
声をかけてくるのは何故?嫌味?

「ど、どうも」
「まさか貴方も今日のパーティに呼ばれているの?……まさかね」
「パーティ?」
「ええ。今日はとある資産家の誕生パーティなの。といっても貴方にはわからないと思うけど」
「そうですね」

なるほど、それでそんな派手な格好をしていたのか。
身なりの良い人が多いのもそのせいかも?
だったら余計にこんな普段着でほろ酔いな自分は居心地が悪い。

「何だ汐里?お前何やってるんだこんな所で」
「崇央!…それこっちのセリフなんだけど!今日はパーティあるって言ったのに」
「パーティ?……ああ、あの橋本の爺さんの。忘れてた。めんどくさいな」
「今からでも参加しましょ。私が付き添ってあげるから。ね?」

さっさと行って欲しかったのに、それよりも先に松宮が近づいてきて。
このまま彼女と一緒にそのパーティに出て行ってしまうのだろうか。
美味しいものが食べられなくなるのは辛いけれど、それ以上に寂しい。

「俺は予定あるから。それに一番上のやつが参加してるだろうしな」
「でも」
「稟。行こう。席も予約しておいたんだ」
「あら。今日は彼女を連れて行くの?……仲がいいのね」

ちらりと彼女が稟を見た。でもまだ余裕のある表情に稟には見えた。

よほど自信があるのだろう。

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