リーダー・ウォーク
愛情を持って接して

今日は、か。

明日はまた別の誰かを誘っていて。明後日はまた違って。
気分や場所によって隣に居る女をかえるのかな。
犬の事なら私と一緒に、華やかなパーティなら彼女、みたいな。

結局そんな軽いものなのかもしれない、この人の言う付き合うなんて。

薄情そうだもんな。まず兄弟の仲からして最悪だもん。

分かってましたよ、ええ。分かってました。だからそんなショックじゃない。


……うそ。すごいショック。


「言ってなかったか、俺の彼女だって」
「は?」
「え?」
「おい何であんたまでそんな反応するんだよ?」

ひとりしょんぼりしていた稟を他所にあっさりとそんなことを言うから。

「そ、そうなんだ。まあ崇央は犬にハマってるもんね」
「チワ丸も大事だし稟も愛してる。どっちも誰にもやらない。…ほら、行こう。
もう焼き始めてもらってるんだ、出来立てが一番美味いんだからさ」
「は、はい」

あれ、さらっとすごい事言われてないかな私。松宮に手を引かれエレベーターに乗り込む。
彼女は固まった笑みを見せたまま動かなかったけれど、大丈夫かな。

「あーあ。まさかここでやってたとは。爺さんの知り合いが流れ込んでこなけりゃいいが」
「知り合いのお誕生日パーティなら顔を出したほうが」
「いいよ。俺の顔を見れば家に養子に来いってうるさいクソジジイだ」
「仲がいいんですね」
「さあ。どうだろう。……なあ、稟。良かったらここ泊まってかないか?
聞けばスイートあいてるって言ってたしさ?ここからまた帰ってってめんどいだろ」
「え。でも着替えないし、チワ丸ちゃんは?」
「連れてくる。いいさそれくらい。着替えならフロントであるだろ、適当に」
「ほんとかな。……でも、こんなすごいホテルでお泊りなんて無いだろうしなぁ」
「そうそう。それもスイートだぞ?いいだろ?な」
「……じゃあ。いいかな」
「決まりな。というか、もう既に部屋は抑えてる。鍵も持ってる」
「……」

稟が呆れているとタイミングよく目的の階へ到着、扉が開いて廊下へ出た。
このホテルにお泊りするのならお酒も飲んでもよさそう、お腹いっぱい食べたい。
なにせお会計はお隣の彼氏が全部してくれるのだから。

ああ、やっぱり私図々しくなってる。

「どうした」
「このお店は……割り勘、します?」
「はあ?何で?いいよそんな変な気使わなくて」
「……でも」
「あんたには後で違うもので対価を頂くから」
「分かりました。チワ丸ちゃんの爪切りをします。ちょっと長かったから」
「そうかそれは頼むけど。そうじゃない。ほら、行くぞ」
「はい」
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