リーダー・ウォーク

お店の入り口に入ると待っていたらしいボーイさんに案内されて
ひときわ景色の良い席に座る。ホテルのレストランに来る予定ではなかったので
服装は普段着だし犬の匂いも若干しているし、足元が少々ふらついている稟が
居るのは似つかわしくないお店だけど。

「な?美味いだろ」
「おいしい」

自慢するだけあって石窯焼きピッツァさんはシンプルなのに絶品でした。

「これがピザってもんだ」
「でもあれは電話したら家まで持ってきてくれますよ?混んでなかったら30分くらいで」
「ここだって電話したら持ってきてくれる」
「それは崇央さんが怖いから特別ですよ」
「何が?俺は怖くないだろ?普通だ」

いや、貴方は絶対周囲から怖がられてますから。

やってもらって当然という俺様な圧力。反論すら許してくれない。
拒否なんかしようなら、何をされるか想像も出来ない。
ああ怖い。よく傍若無人とか傲岸不遜とか言われるタイプだ。
彼の家柄とか財力がどれほどか稟には計り知れないけれど。

この自信は相当なもの。


「よくいえますね……」

そして本人はまったくその辺を理解していないと。

「ワイン飲む?」
「飲む」
「ん。じゃあ。俺のお薦め出してもらう。…けど、1杯だけな。飲み過ぎだ」
「はい」
「そうやって素直に返事をする所は本当に可愛らしい女だよあんたは」
「どうせ普段は不細工です」
「ほら。そうやってヘンに取るだろ?」
「変なこと言うから」
「何処が?可愛いって言ったんだろ」
「あやしい」
「怪しくない。…ほら。乾杯しよう、乾杯。…このワインも気に入ればいいな」

でも根は優しくて彼なりに大事にしてくれている。と思う。
彼の言う「彼女」がどういう彼女なのか今ひとつ自信がないけれど。
美味しいピザとワインを貰って至福の時を味わってその辺どうでも良くなった。


「トイレはここで。ベッドはここ。いいかチワ丸。次はちゃんとお前の為に
専用のペンションへ行くから、その日のための練習だと思え。粗相はするなよ」

広い部屋にチワ丸を解き放つと盛大に走り回るかと思ったがトイレの位置の確認と
自分のベッドの位置を確認してあとは稟が座っていたソファにジャンプして寝転がるだけ。
豪邸に住んでいるチワワだけあってこれくらいじゃ興奮しないのかも。

「スイートルームって初めて」
「そうだろうな」
「こんなちょっと泊まるだけじゃもったいないな」
「何なら次のデートはスイートにお泊りでもするか?」
「でも一日ここに居ても逆にすることないですよね。あ。私は勉強が捗るかな」

チワ丸を膝に寝かせ頭を撫でならが稟は室内をぐるりと見てみる。
帰るのが面倒だからつい彼の申し出を受けてしまったけれど、
こんな素敵な部屋にただちょっと寝るだけなんて寂しいようなもったいないような。

「俺がデートだって言ってるんだ。捗るのは別のモノだろ?」

稟の隣に座りやや強引に肩を抱く松宮。

「あ。チワ丸ちゃんここちょっと赤くなってる」
「乳首だろ」
「ほらほら。ここ」
「……マジか。何だこれ。こんなの昨日はなかったぞ」
「何でしょ。悪い虫じゃなかったらいいんだけど」
「あんたそういう縁起でもないこと言うなよ心配になるだろ」

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