天に見えるは、月
そうして代表電話を取りながら、たまっていた雑務をこなしているうちに、気がつけば数日が過ぎていた。その間、モンドとはトータルでおそらく三時間程しか顔を合わせていない。
顔を合わせない分、妙な緊張はしなくてすんでいるけれど、だからといって気を抜く時間など香凛にはなかった。
モンドの日々のスケジュールをチェックしつつ、訊かれたことにはすぐに答えられるよう常に準備をしていなくてはいけないから毎日必死だ。しかも仕事に慣れていない中でそれをこなさなくてはいけないのだから、香凛はたった数日にもかかわらずもうここから逃げ出したくなっていた。
ふと見上げれば、時計の針は午後三時に差し掛かろうとしていた。
香凛は総務にいた時と同じように、毎日この時間にみんなに飲み物を出している。配属初日に派遣社員の女性達に聞いたところ、ここでは誰もお茶出しのようなことはしていないとのことだったが、勝手に出す分には許されるだろうとそうすることにした。
と言っても、すべてが人のためというわけでもない。
業務から離れて、少しでもほっとする時間を作りたかった。
今日もコーヒーを準備しようと席を立ち、休憩スペースに向かうと――そこには見覚えのある後ろ姿。
引き返そうとしたが、時すでに遅し。その人物は気配を察したのか、こちらに振り返った。
「お疲れ……さまです」
目が合ったからには、なにか言わなくてはいけない。香凛がそう言うとモンドは案の定、眉間に皺を寄せた。
「休憩か?」
「いえ……みなさんにコーヒーでも、と」