天に見えるは、月
俯いていると、モンドは車を降りて運転席側に回ってきた。「降りろ」と声が聞こえた気がして、香凛も車のドアを開ける。
「俺が運転する。まだ死ぬわけにはいかないからな」
呆れられてしまっただろうか。なんとも情けなく申し訳ないことではあるけど、ここは素直にモンドに変わってもらう。
さっきまで運転のことで頭がいっぱいで意識が向かなかったが、助手席に座った安堵感か、香凛は少し冷静さを取り戻した。
取り戻して、気づく。自分は今、モンドの運転する車の助手席に座っている。モンドとふたりきりという状況にすら慣れていないのに、この至近距離。緊張しないわけがない。
どうにか意識を逸らそうと、香凛は話題を探した。
「中村課長に運転させてしまって、すみません……」
まずは謝るのが先だろうと、香凛はモンドに詫びた。
「まさか、俺が運転することになるとは思わなかったがな」
「すみません……」
「暇がある時にでも運転の練習をしておけ」
そう言われても、家に車がないのだから練習のしようもない。レンタカーは万が一ぶつけたりしたら面倒だ。
「家に車がないので……」
「だったら、この社用車で練習しろ」
「会社規定で、仕事の時以外は借りられませんし……」
できない言い訳をしているようで嫌な気分になる。でも本当のことだから仕方がない。
「……わかった。いつか外回りで時間がある時にでも付き合ってやる」
「えっ……」
聞き間違いかと、香凛は恐る恐るモンドを見た。彼は表情を変えず、当たり前だけれど真正面を見据えている。
「中村課長が……ですか?」
「いつまでも橘のお抱え運転手じゃ嫌だからな」