天に見えるは、月
「フ……それもそうだな」
見間違いではない。モンドが……笑っている。
意外な状況に面食らって、固まった。
「だが、時間は有限なものだ。なるべく俺について来れるように、最大限努力はしろ」
モンドはすぐにいつもの顏に戻ると、スーツのポケットから何かを取り出し香凛の目の前に差し出した。
「次の予定が迫っている。急いで社に戻るぞ」
香凛が手渡されたのは車のキーだった。モンドは午前中の外回りは社用車で出ていたから、そのままここに来たのだろう。
香凛はそれを渡されて、困惑する。
モンドは香凛の様子に気づくこともなく、さっさと百貨店の駐車場へと向かっている。
どうしようかと思い迷っているうちに、車の前に着いてしまった。モンドは助手席の前に立ち、開けろとばかりに香凛に視線を送っている。
香凛はとりあえず鍵を開け、仕方なく運転席側に乗り込んだ。
「あの……」
「なんだ」
香凛が言いづらそうにしていると、モンドはなにかを悟ったような顔をした。
「免許証を忘れてきたのか?」
「あ、いえ……免許証はいつも鞄に入れているんですけど……」
「じゃ、なんだ」
魅惑の低音ボイスは、こういう時威圧に変わる。
モンドから視線を外すと、車内の時計がちらりと目に入った。言い渋っている時間はあまりなさそうだ。
「わたし、免許を取ってから数えるほどしか運転していないもんで……ちょっと運転に自信がないというか……」
免許は大学時代に取得していたが、実家の車は平日が父親、休日が母親と常に両親が使っていて、あまり練習する機会に恵まれなかった。ひとり暮らししてからは車が手元にないので全く運転していない。
それでも運転しろと言われるだろうか。そうなれば覚悟して運転するしかない。