天に見えるは、月
「おい」
暗闇だから、もしかしたらよく似た人物と見間違っているだけかもしれないと思いたいのに。
残念ながら、見間違いじゃなかった。街灯のおかげで、顔がはっきりと見えた。
そこにいたのは、勇作と――実夏。
ホテル街から、こちらに向かって歩いてきている。
それも仲良さそうに、手を繋いで。
「橘」
見てはいけないものを見た気がして、心臓がバクバクと音を立て始める。やましいことをしているのは、自分じゃないのに。
このままじゃ、こちらに気づかれてしまう。
膝までガクガクと震え始めた。見られたくない気づかれたくない。
「おい」
香凛は操り人形の糸が切れたように、その場に崩れ落ちるようにしてしゃがみこんだ。
「気持ち悪いのか?」
「違……」
違います、と言ったつもりだったのに、声にならない。
今モンドと一緒にいて、こんなことをしていたらいけないと頭ではわかっているのに、心と体がいうことをきかない。
気持ちを静めようと膝を抱えていると、モンドの気配が遠ざかっていくのを感じた。
「……は」
置いていかれるとは。
この状況に、笑えてくる。
何度も問いかけられているのにそれにまともに答えず、しまいにしゃがみこんで動かなくなってしまったのだから、おそらく呆れられたのだろう。
当然だ。モンドなら、特に。
でも、かえって都合がいいかもしれない。これで迷惑を掛ける人もいなくなった。
香凛は膝を抱える腕に力を入れ、首を曲げて体を丸めた。これで万が一見られたとしても、自分とは気づかれない。